風の刃と水の羽衣
「わかった、みんな!」
「せェ~ので、1斉攻撃だからね」
盾を構えた3人の船長たちの後ろで、ウティカとルスピナが言った。
「合図と共に、飛び出して攻撃だな」
「攻撃したら、盾の内側に戻る」
「了解した!」
イオ・シル、イオ・セル、イオ・ソルが、再び斧を構えて合図を待つ。
他の9人の少女も、3人の船長たちの構える盾の間に隠れて、準備を整えていた。
「ギャハハ。アイツら、なにか企んでやがるぜ」
「先に攻撃しちゃってもイイけど、面白そうだから待ってあげるわ」
「戦いが直ぐに終わっちまうと、やるコトなくなっちまうだでな」
彼女たちが標的とする、蒼玉の魔王メディチ・ラーネウス、黄玉の魔王ペル・シア、橙玉の魔王ソーマ・リオは、余裕で待ち構えている。
「アイツら、余裕ぶってェ!」
「合図は、まだなの?」
「1発、ブチかましてやるんだから!」
ハト・ファル、ハト・フィル、ハト・フェルは、斧を持つ両手に力を込めた。
「水の精霊が、みんなを加護したわ。せェ~の……今よ!」
ルスピナが、合図を送る。
「いっけェ!」
「ラビ・リンス帝国に侵入した魔物どもめ!」
「我らが戦斧を、喰らうがイイ!」
最初に飛び出した、スラ・ビシャ、スラ・ビチャ、スラ・ビニャの3人が、蒼玉の魔王メディチ・ラーネウスに攻撃を仕掛ける。
「お前ら如き雑兵が、このメディチ・ラーネウスに叶うと思ったか!」
蒼玉の魔王の、蒼流槍ジブラ・ティアが唸(うな)りを上げた。
槍の穂先に無数に生えた牙が、回転と共に激流の刃を生み出す。
「地上の闘技場に……」
「水の激流を生み出しただと!?」
「こ、このままでは!」
スラ・ビシャたちの前に、回転する鋭利な水の刃が差し迫っていた。
「大丈夫よ。貴女たちには、わたしの精霊メガラ・スキュレーが、加護を与えているもの」
ルスピナが言った通り、飛び出した12人の少女たちの身体は、水の羽衣で覆われている。
蒼玉の魔王の生み出した水の刃を、なんなく中和してしまった。
「ス、スゴイ!」
「水の刃が、元の水に返って行く」
「これなら、斬り込める!」
ロウ・ミシャ、ロウ・ミチャ、ロウ・ミニャの3人の少女が、右に回り込んでメディチ・ラーネウスに斬り込む。
同時にスラ・ビシャたち3人が、左から回り込んで蒼玉の魔王を襲った。
「たかが小娘が大勢で攻撃して来ようと、このメディチ・ラーネウスの蒼きウロコに覆われた身体を、傷付けられるハズがねェだろ!」
蒼玉の魔王は、6人の少女による左右同攻撃を受けきるため、全身の筋肉に力を込める。
「それは、どうかな」
船長たちの盾に隠れたウティカが、クスリと笑った。
彼女の背後には、巨大な竜巻が渦を巻いていた。
「ウティカの嬢ちゃんよ。ソイツァ、なんだ?」
大きく口を開けた、ティンギスが問いかける。
「このコは、風の上位精霊アニチ・マリシエイ。竜巻の中から出たがらないケド、風の加護を与えるわ」
ウティカの瞳は、魔王に斬り付ける寸前の少女たちに向けられていた。
6人の少女たちの、タバールと呼ばれる月形の刃をした斧が、風を帯びる。
「グワアァッ、なんだとォ!?」
風の刃を持った12本の斧が、魔王の両肩から両脇、両腰にかけてを斬り裂いた。
蒼流槍ジブラ・ティアを持った魔王の腕も、ボタりと床に転がる。
「な、なにやってんだい、メディチ……」
慌てる黄玉の魔王ペル・シアに、別の3人の少女が襲い掛かった。
「お前も、油断し過ぎだ!」
「わたし達はこれでも、アステ将軍の親衛隊だったのだ」
「お前のごとき輩に、遅れは取らん!」
イオ・シル、イオ・セル、イオ・ソルの、6本の両刃の斧が風を纏(まと)い、ペル・シアの華奢な身体を斬り裂く。
「だ、大丈夫だか、ペル・シア?」
橙玉の魔王ソーマ・リオが、追撃から守ろうと間に割って入った。
「最後は、お前だ!」
「その巨体も、斬り砕く!」
「覚悟しろ!」
ハト・ファル、ハト・フィル、ハト・フェルの両刃の斧が、ソーマ・リオの巨漢をも斬り裂いた。
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