ラノベブログDA王

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王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第08章・68話

生贄(サクリファイス)

 アフォロ・ヴェーナーの巨大な口から発せられた超音波(エコーロケーション)は、ドームに貼り付いた汚水の巨人の頭部に命中した。

「上手く行ってるのか? 音波は見えないから、効いているのか判らないぞ」
 真央のタンガタ・マヌーは、真珠色のイルカの頭部から飛び立つと、再び巨人の周囲を旋回し始める。

「効いてる。巨人の表面が、揺れてるから……」
「そっか。ヴァルナは、水を操るサブスタンサーに乗ってるから、判るんだ」
 ヴァルナとハウメアも、それぞれのサブスタンサーと1体化しながら様子を見守った。

 巨人の表面の振動は次第に大きくなって行き、やがて全身が激しく揺れ始める。
頭部にあるコアとなっている複数の目玉も、不規則に動き始めた。

「見ろよ。巨人の目玉が、沸騰した鍋の中のゆで玉子みてェになってるぞ」
「ホントだ、美味しそう……」
「エコーロケーションでの振動が、熱を発生させてるんだね」

 汚水の巨人は、電子レンジの中に入れた水のように、グツグツと沸騰を始める。
身体から蒸気を上げ、水以外の不純物も真っ赤に熱せられ始めた。

「もう少しよ。セノン、大丈夫?」
 アフォロ・ヴェーナーを操るトゥランが、ドームを中から支える少女に問いかける。

 ……けれども、返事は無かった。

「やったぜ、巨人の頭が堕ちた!」
 真央は叫ぶと同時に、タンガタ・マヌーの鋭利な翼で、頭部からこぼれ出た目玉を何個か切り裂いた。

「これなら、行ける……」
 ヴァルナのバール・ヴァルナが、水の羽衣を落下した頭部に侵入させる。
ナノ・マシンの水が、巨人の頭部を元の汚水へと分解した。

「ナイスだ、ヴァルナ。残った目玉は、わたしのクホオ・ネ・エヌウが、焼き尽くす!」
 ハウメアのサブスタンサーの溶岩のドレスが、汚水から解放された目玉に接触する。
目玉は激しく発火し、溶岩のドレスの中へと消えて行った。

 頭部を失った巨人の身体は、汚水となってドームの天井を流れ落ちる。
決壊したダムのように、大量の濁流がドッグ内部に溢れて行った。

「やったぜ! ドームの巨人を、倒せたぜ!」
「残るは、ドッグのザコのみ……」
「そっちは、セシルさんたちが対処してくれているよ」

 真央、ヴァルナ、ハウメアのサブスタンサーが、集まって来る。

「セノン、外は片付いたぞ」
「そっちは、どうなってる……」
「エコーロケーションの影響は、出てない?」

「……ゴメ……なさい……わたし、失敗しちゃいました……」
 3人のコミュニケーションリングに、親友の泣きはらしたような声が届いた。

「ど、どうした、セノン。中で、何があった!」
「も、もしかして……」
「エコーロケーションの影響を、防げなかったの?」

「そ、そうじゃ……ないんです。わたし、頑張ってみんなを護ろうと……」

「だったら、他に何があったんだよ?」
 親友の様子に、心配する真央。

「どうやらドームの内部に避難していた人たちが、パニックを起こしたみたいね」
 アフォロ・ヴェーナーの操縦者であるトゥランが、替わりに答えた。

「それって、まさか……」
「中は、どう言う状況なの?」
 ヴァルナとハウメアが、説明を求める。

「パニックを起こした人々が、ドームの上部に向かって殺到したのよ。多くの人たちが将棋倒しになり、放射能の汚水に落下した人も大勢いるわ」

「な、なんだって!?」
「今の話、ホントかよ!」
「なんだって、そんなコトに……」

 コミュニケーションリングを通して、悲劇を聞きつけたセシルたち9人の少女たちも、敵を掃討しつつ騒然とする。

「と、とにかく、まだ助かる人が居るかもだぜ」
「わかった。ヴァール・バルカで、ドーム内の水だけでも浄化する……」
「わたしは放射能に気を付けながら、救助に当たるよ」

 地下潜水艦ドッグのドームの内部には、大勢の人が折り重なり倒れていた。
セノンが話した通り、内部の汚水に浸かってしまっている人も多数見受けられる。
真央たちを中心に救助活動が行なわれ、重傷者はアフォロ・ヴェーナーの内部へと運び込まれた。

「これも、運命よ。わたしの子は、アステカの神の生贄となったのだわ」
 我が子を失った、1人の若い母親が泣き崩れる。

 助かった人間より多くの人たちが、セノーテ底の地下ドッグの水の中へと消えて行った。

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