首無し女の主(マスターデュラハン)
「キャアアアアァァァーーーーーーーーーッ!?」
「イヤアアァァーーーーーーーーーーーッ!!!」
墓場の地面に転がった、ニンジン色のお下げの頭(こうべ)を見て、絶叫する女性たち。
「お、驚かせて……すみません。取れやすく、なっているモノで」
申しワケ無さそうに自分の頭部を拾い上げ、首の上に置くサキカ。
「手品とかである演出なんだろうが、マジでビビったぜ」
「ああ。どうやってんだろうな?」
胸を撫で降ろすと同時に、トリックに首を傾(かし)げる観客たち。
舞台裏から見ても、サキカの首が落ちているように見えた。
「サキカくんが発見されたのは、翌日の昼過ぎだった。昼食の時間になっても降りて来ないのを訝(いぶか)しんで、警察の責任者とメイド長が合鍵で部屋に入ったところ、バスタブで死んでいる首無しの彼女を発見したと言うワケさ」
マドルは墓場のセットの端まで行くと、踵(きびす)を返して話を続ける。
「警察は、連続殺人の犯人を、首無し女の主(マスターデュラハン)と名付けた」
「マスターデラ……なに?」
「デュラハン。RPGなんかに出てくる、首無しの騎士だろ?」
「犯人のコードネームなんて、いよいよミステリーっぽくなってきたわね」
「デュラハンは、首無しの女妖精のコトだよ。後の世に出た小説の影響からか、男性の首無し騎士とされるコトもあるが、アイルランドの伝承ではそうなっているね」
マドルは、言った。
「話を戻そう。前日の夕食は、サキカくんも他の親族たちとダイニングで食事をしている。夕食に参加したのは、重蔵氏の次男の妻と2人の娘たち。3男の妻と、長女夫婦だった」
「次男はわかるが、3男も参加してないのか?」
「サキカちゃんのお姉さんたちは、参加してるのね」
「意外と、長女夫婦が怪しくない?」
自分なりの推測を立てる、観客たち。
まだ犯人を確定できるモノは、出てきて無いように思えた。
「警察の検死の結果、サキカくんの死因は首を切断されたコトによる失血死、もしくはショック死と鑑定された」
「うわァ、えげつなッ!」
「でも、1件目と死因が違うわよ?」
「そうだな。トアカは、首を絞められた後に、首を刎ねられたんだっけ?」
「サキカくんは、大きな刈り込みバサミか、それに類する刃物で首を斬り落とされていた。犯行現場も、個室の浴槽と判明したため、彼女は何らかの方法で眠らされていたのだと思われる」
「そう……あの日、みんなとお食事をしたわたしは、お部屋に戻ってお風呂に入ったの」
首を戻した、サキカが語り始める。
「お洋服を脱いでるときになんだか眠くなって、湯舟に浸かったらいつの間にか寝ちゃって……それっきりわたしは、2度と目覚めるコトが無かったんだわ……」
シクシクと鳴き始める、サキカ。
「可哀そうになあ、サキカちゃん」
「でも、そんな大袈裟な犯行だったら、物音も凄かったんじゃないのか?」
「聞いて無かったの。犯行のあった夜は、大雨で雷が鳴り響いてたのよ」
「体勢を縮小させていたとは言え、警察が介入していての犯行だった。首無し女の主(マスターデュラハン)の犯行は、マスコミを大いに賑(にぎ)わせ、警察の面目は丸潰れさ。そんな新聞を、吾輩は探偵事務所で目を通していたのだよ」
『リーーン、リーーン』
ドーム会場に、古びた電話のコール音が響いた。
「吾輩の元に、1本の電話がかかって来た。なにを隠そう、現場にいた警察の責任者と言うのが、吾輩の叔父でね」
受話器を取る振りをする、マドル。
「悪いんだがマドル。お前に秘密裏に、頼みたい案件があるんだ。シャレにならねェが、オレのクビがかかってる。依頼料は弾むから、頼まれてくれねェか?」
ステージのスピーカーから流れる、受話器越しに話す男の声。
「それまでも、凡庸な推理力しか持たない叔父の依頼を、何度か受けていたのでね。仕方なく、請け負うコトにしたんだ」
舞台の中央で立ち止まる、マドル。
「これが吾輩の……最期の事件になるとも、知らずにね」
探偵の目から、血の涙が零(こぼ)れた。
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