第2の殺人事件
「渡邉 サキカくんは、第2の殺人の被害者だが、館に呼ばれていきなり殺されたワケではない」
マドルは、話の先を続けるように、サキカに視線を送った。
「は、はい。孤児院で暮らしていたわたしは、ある日突然館に呼ばれました。も、もちろん、遺言状の開封には立ち会っていません」
サキカは、所々言葉を詰まらせながらも、経緯を説明する。
「だ、だから、莫大な財産が自分のモノになるなんて聞いたときは、とても驚きました。正直、生きていた時も、現実とは思えませんでした」
「第2の遺言状が開封されてから3日ホドして、彼女は館に到着したそうだよ。その時には、重蔵の次男は会社に所用があるとかで、館には居なかった。愛人との隠し子が見つかって、妻に合わす顔が無かったと言うのが、大方の予想だがね」
「はい。伯父の替わりに館には、2人の姉たちが居たのです。わたしは姉たちに、冷たく当たり散らされました。伯父や、自分たちを差し置いて、愛人の子であるわたしが財産を受け継ぐのを、許せなかったんでしょう」
サキカが視線を上下させる度に、ニンジン色のお下げが揺れた。
「第1の殺人が猟奇的なモノだったため、警察も警戒して館に人を入れていた。恐らく、犯人捜査も兼ねてのモノだろうがね。それが功を奏してか、何事も無く1週間が経過する」
「孤児院で育ったわたしにとって、館での生活は夢のようなモノでした。家具やお皿もキレイだったし、ベッドだってフカフカで……美味しい料理が、勝手に出て来るのにも驚きました」
そう語るサキカの顔は、暗いままだった。
「警察が張っているからか、犯人は動かなかった。もちろん犯人は、重蔵の次男と言う可能性もあるがね。だがこの時、重蔵の次男は会社の取引先である、上海(シャンハイ)に出張で飛んでいた。それだけは、確かだよ」
再び確定情報を示す、マドル。
「その間に警察は、トアカさんの身体を圧し潰したシャンデリアが、付け根部分に細工が施されていたコトを発見する。殺人の現場を、トアカさんの寝室ともほぼ断定した。部屋に争った形跡は無く、ベッドですらキレイなままだった」
「え、それって、なんか意味あんのか?」
「バカね。顔見知りの、犯行ってコトじゃない」
「それは違うな。トアカは、犯人を目撃していないと言っている」
新たな情報を元に、新たな推理を始める観客たち。
「次男の娘2人が、怪しくねェか?」
「でも第1の殺人のときは、館に居なかったんでしょ?」
「そ、それもそうかァ」
「さて、キミはどう思う。現時点での、推理を聞こうじゃないか?」
久慈樹社長の好奇心に満ちた瞳が、こちらを向いていた。
「そうですね。まだ重蔵の長男の情報が、なにも出て来てません」
「フム、言われてみればそうだなァ。生きているかも、釈然(しゃくぜん)としない……」
その時、ドーム会場の妖しい空に、雷鳴が轟(とどろ)いた。
「うわぁ、ビックリしたぁ!」
「急に雷(カミナリ)なんて、驚かさないでよ」
「オッ、雨音まで聞こえて来たぜ」
ドームの天蓋(てんがい)全体が黒い雲に覆われ、まるで本当に雨が降っているかのような土砂降りの雨音が響き渡る。
「こんな雨の降るあの日……わたしは殺されました……」
青白い顔の、サキカが呟(つぶや)いた。
「警察は1通りの調査を終え、調査報告のためか屋敷に配した警官の人数を減らしていた。雨が降り止まぬ夜に、第2の殺人事件が発生する」
墓場のセットに、雷鳴と雨音が鳴り続ける。
地面は濡れ、ぬかるんでいた。
雨音が、生活音を完全に打ち消しす。
「夜が明け、空がキレイに晴れ渡った頃、サキカくんの死体が発見される」
マドルの説明と同時に、ドーム会場の空も蒼く晴れ渡っていた。
「場所は、自室の浴槽。館には、使用人が使う大型浴場もっあたが、館の主たちの部屋にはそれぞれ、小型のバスタブが設置されていた」
マドルの背後のガラスの塔が、真っ赤に染まって行く。
「バスタブの水は、サキカくんの血で真っ赤に染まっていてね。彼女の身体は、一糸纏(まと)わぬ姿でバスタブの中に横たわっており、やはり首は存在しなかった」
ニンジン色のお下げの頭が、ゴロンと地に落ちた。
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