ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第53話

ミステリーとナンセンス

 殺されたトアカ自身が語る、館での殺人事件の様相は、凄惨(せいさん)を極めたモノだった。

「ヒイイ、首が切れてるッ!」
「そう言えば、ホラー入ってたんだった」
 いきなりの演出に、悲鳴を上げる観客たち。

「トアカさんが殺されたのは、遺言状の開封から翌朝までの間だった。伊鵞 重蔵(いが じゅうぞう)の親類が大勢目撃しているから、それだけは確かだ」
 確定情報を提示する、マドル。

「また使用人についてだが、メイドの何人かは家に帰宅してアリバイがあり、住み込みで働いているメイド長と料理長についても、さしたる動機が見当たらないので、容疑者から外して構わないだろう」

「ヤレヤレ。ご都合主義も、甚(はなは)だしいね。実際には、容疑者が数名に絞られるなんてコトなど、極めて稀(まれ)だろうに。そのヘンを歩いてる連中全てが、容疑者のハズさ」
 舞台裏でミステリーを皮肉る、久慈樹社長。

「ミステリーで、見ず知らずの人が犯人だなんて、ナンセンスでしょう」
「キミに言われなくたって、それくらい解っているよ。まだ容疑者も、全員出揃っては居なさそうだ」

「現時点で容疑者になるのは、伊鵞 重蔵の遺言状を開封したときに同席した、重蔵の次男夫婦と3男夫婦、長女夫婦ですね」
「イヤ。開封をした弁護士だって、容疑者になるうるじゃないか」

 ボクたちはいつの間にか、推理を始めていた。
それは観客たちも同じで、連れだった人たちと互いの推理を披露し合っている。

「これが、第1の殺人事件のあらましです。残念ながら吾輩は、遠くの探偵事務所にて紅茶を嗜(たしな)んでいる頃で、この時点で事件には関わっていません」

 マドルが、小さなシルクハットを直しながら言った。

「……ですが、ここで思わぬ事態が発生しました。遺言状は、2通目が存在したのです」
 第1の殺人の被害者である、トアカの言葉に騒(ざわ)めく会場。

「1通目の遺言状には、重蔵氏の莫大な遺産の相続人は、トアカさんだと書かれてました。ですが第2の遺言状には、もしトアカさんが亡くなった場合、渡邉 佐清禍(わたなべ サキカ)さんが、全資産を相続すると書いてあったのです」

「渡邉 サキカって、誰よ?」
「墓場の卒塔婆(そとば)に、書いてあった名前だろ」
「……てェコトは、次に殺されたのは?」

 卒塔婆のデザインとなったガラスの塔に、渡邉 佐清禍と書かれた血文字が赤く光る。

「わ、わたし、ナベリウスを司る、……渡邉 サキカ。な、なんで、殺されなきゃならなかったの?」
 外套(がいとう)を脱ぎ捨て、ヒステリックに問いかける、少女。

 彼女は、純白のネグリジェのようなワンピースの上に、黒いコートを羽織っていた。
コートには、ぬいぐるみの犬の顔が3つ付いていて、掌(てのひら)も大きな犬の肉球になっている。
おでこが広く、ニンジン色の髪を左右にお下げにして垂らしていた。

「重蔵氏の第2の遺言状は、1通目の最後に存在が書かれており、やはり同じ弁護士が預かっていました。再び亡くなったトアカさん以外の親戚が集められ、遺言状は開封されたのです」

 卒塔婆の外観だったガラスの塔に、館の広間らしき場所が映し出される。

「開かれた遺言状を見て、集められた殆どの人物が驚きました。誰も、渡邉 サキカなどと言う名前は、聞いたコトも無かったのです」
 再び騒めく、ドーム会場の観客席。

「わ、わたし……孤児院で育ったの。お母さん、死んじゃったから」
 ポツリと呟く、サキカ。

「彼女は、簡単に言えば私生児。重蔵の次男と、彼の愛人との子でした。その存在は次男の妻ですら知らず、愛人だった母親が死ぬと、彼女は孤児院へと預けられたのです」

「重蔵の次男って、ずいぶんと勝手な男ね」
「もしかして、その次男が犯人なんじゃ?」
「確か、事業に失敗したんだよね。遺産が転がりこんで来たら……あり得る話だわ」

「観客たちも、各々に無い頭を働かせているようだね。キミは、どう見る?」
 久慈樹社長が、ボクに視線を向けた。

「メタ的に言えば、ミスリードな線が濃厚なんですが」
「オイオイ、それこそナンセンスだろう」
 久慈樹社長は、肩を竦(すく)めた。

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