王妃パルシィ・パエトリア
王妃パルシィ・パエトリアは、金色に輝く美しい髪を長く垂らしている。
真っ白な肌の整った顔には、エメラルド色の瞳を輝かせていた。
「アレがミノ・リス王の、お后(きさき)サマか。王サマに比べて、ずいぶんと若いじゃねェか」
相変わらずの軽口を叩く、ティンギス。
パエトリアの長い首には、黄金の地金に様々な宝石が散りばめられたネックレスが巻かれている。
細い指にも、大きな宝石の付いた指輪がはめられていた。
「オメーらの主の女将軍サマの、露出度多めな色気と比べても、貴賓(きひん)のある色気って感じだな。流石は、王族ってところか」
尚も軽口が続くと、周りの少女たちは顔を強張らせた。
「ミノ・アステさまとて、好きであのような格好をされていたワケでは無い」
「盛(さか)りの付いた男どもの欲望を発散させる、お役目としてやっておられたのだ」
「キサマみたいな男さえ居なければ、ミノ・アステさまもあの様な……」
「残念だが、そりゃ無ェぜ。いいか、イオ・シル、イオ・セル、イオ・ソル。男って生き物は、みんなエロいんだ。庶民だろうが、王族だろうがな」
高笑いをしながらふんぞり返る、ティンギス。
「オイ、ティンギス。ガキ相手に、なんてコト言ってやがる」
「子供にしてイイ話と、悪い話があるだろう」
レプティスとタプソスが、お目付け役として注意する。
「わたし達は、お前たちが思っているホド、子供では無い」
「男がエロい生き物だと言う現実を、イヤと言うホド見て来た」
「我々とて、ミノ・アステさまの庇護(ひご)が無ければ、とっくに……」
ハト・ファル、ハト・フィル、ハト・フェルの3人が、子供であるコトを否定した。
「お前たち、歳はいくつになる?」
タプソスが少女たちに問いかけると、スラ・ビシャ、スラ・ビチャ、スラ・ビニャの3人が答えた。
「も、もう直ぐ、11歳だ」
「だが、実際の年齢など関係ない」
「我々と同じかそれ以下の少女たちでさえ、男たちの欲望に晒(さら)されている」
「ラビ・リンス帝国の男社会の、悪い面が出ちまってんだな。まッ、この国に限らず、男ってのは一皮むけば、獣(けもの)みたいな生きモンさ」
ティンギスは答えながらも、その視線は王妃の方に向けられている。
「理性なんて薄皮で、覆い隠しちゃあいるがな」
「オメーの場合、覆い隠す気も無さそうだがな」
「違いない」
貴賓席で、観衆の男たちの声援に手を振る、王妃パルシィ・パエトリア。
気高く品のある物腰で、観衆に向かって語りかけた。
「皆さま。ようこそ闘技場に、お越しくださいました。我が夫、ミノ・リス王に成り代わって、厚く御礼申し上げます」
王妃が微笑むと、観客たちは一瞬にして静まり返る。
「今日は、新たなる女将軍ミノ・アステの就任式です。先代の将軍がお役目を終え、新たなる女将軍が今ここに誕生するのです」
最上段の貴賓席から、ゆっくりと歩き出す王妃。
しばらくして、割れんばかりの声援と拍手が、闘技場全体から沸き上がった。
「アレ。あの王妃サマも、幻影の魔法ってヤツか?」
「イイヤ。幻影の魔法では、あのように動くコトは出来ぬ」
「王妃サマは、好奇心旺盛(おうせい)なお方だ」
「王がお止めになられても、闘技場の主催者を買って出られるコトも多い」
ロウ・ミシャ、ロウ・ミチャ、ロウ・ミニャが、王妃の人となりを解説する。
「さあ、新たなるミノ・アステ女将軍。この闘技場に、入場されたし」
王妃パルシィ・パエトリアは、闘技場の中段辺りに設けられた宣誓台に登って、両手を広げた。
腕に付いた、鳥の羽根のマントが風に靡(なび)き、大きく広がる。
「あの王妃、大した役者だぜ」
ティンギスが、ニヤッと笑った。
「オッ、城門が開いて行くぜ」
「いよいよ、新たな女将軍の登場か」
レプティスとタプソスも、他の観客と同じく闘技場の城門に注目する。
「ゲゲェッ!! ア、アイツはッ!?」
ティンギスたち3人の船長が、一際(ひときわ)大きな声を上げた。
前へ | 目次 | 次へ |