教育論
ボスキャラを倒しポーズを決めた、クリティカル・テック・ストライカー。
「哀しみの、クリッター」
クリッター・ピンクのルミナが、タイトルコールをすると曲が流れ始める。
「あ、アニメのエンディング曲だ」
「今度はちゃんと、自分たちで歌ってるみたいね」
「あれだけハデなアクションで、ステージ狭しと動き回ってたのに、よく歌えるよな」
観客席に集まったアイドルファンたちも、クリティカル・テック・ストライカーたちの運動能力や肺活量は認めていた。
「フウ。一時はどうなるコトかと思ったが、ヒロインショーと言うだけあって、けっこうな時間を消費してくれたよ」
ガラスの塔のデジタル時計を見上げる、久慈樹社長。
50:00からのカウントダウンの数字は、25:00を切ろうとしていた。
「良いコのみんなァ、なんとかモンスターをやっつけるコトができたよォ!」
クリッター・ピンクの、ルミナがドームの観客席を見渡しながら手を振る。
「突然ですが、大事なお報(しら)せがあります。我々クリティカル・テック・ストライカーこと、クリッターの主演するアニメの第1巻が、発売されるコトとなりました」
クリッター・グリーンのジゼルが突然、自分たちが拍子のパッケージを取り出した。
「わたし達の歌う、アニメのオープニング、エンディング曲の入ったシングルも、同時発売だよ」
「そ、挿入歌も入ったミニアルバム仕立てで、とってもお得なんですゥ」
イエローのクロルと、ブルーのホタルは、シングルのパッケージを持っている。
「なんだか急に、アコギな雰囲気になったぞ!」
「商売っ気、タップリね」
「でもあんな内容で、売れるのかしら?」
敵の腕や首まで斬り落とす少女たちのステージを見て、売り上げを心配する観客たち。
けれども予想に反して、彼女たちのメディアは売れるコトとなる。
一般層には受けなくとも、コアな層を虜(とりこ)にした結果だが、それはまた後の話だ。
「良いコの、みんなァ。次のステージまでに、わたし達クリッターの応援ができるように、ちゃんと練習して置いてね。クリッターからの、約束だよォ」
満足げな笑みを浮かべた4人の少女たちは、宙へと飛び上がり、颯爽(さっそう)と去って行った。
「……台風一過って、感じだな」
「ああ。ある意味、スゴいモノを見たぜ」
「オレ、帰ったらアニメ、見てみようかな」
観客席の反応を観察しながら、ボクはガラスの塔でテストを受ける、生徒たちを心配する。
「理科のテスト時間も、半分を切ったか。ウチの生徒たちは、理科が得意なコは少ないからな……」
強いて挙げれば、パソコンを自作してしまうホドの知識のある、ユミアが得意なくらいだった。
「キミも、生徒たちの行く末が心配かな?」
ステージ裏で、久慈樹社長が親し気に語りかけて来る。
「え、ええ。ボクの教え方のせいで、彼女たちが上手く勉強できていないとしたらと考えると、心配にもなりますよ」
「そうかい。結局のところ、勉強するかどうかなんて、本人次第だ。周りがいくら強制しても、本人にやる気が無いのであれば、どうしようも無いさ」
「それは、ユークリッターでも……と言うコトですか?」
ボクは、率直に聞いて見た。
「正直に言えば、そうだ。いくら優れた教育動画を造ったところで、見られなければ何の意味も無い。バカにしちゃあいるが、生徒たちをかつての学校に集めて動画を見させる先生ってのも、必要な存在だとは思っているよ」
「動画をいつでも見られる状況って、案外見ないモノだって、友人も言ってました」
「それが、大方の意見だろうね。キミみたいなバカ正直なヤツはむしろ少数派で、殆(ほとん)どのヤツは勉強なんてしたくも無ければ、教育動画を延々と見続けるのさえ苦痛なんだ」
教育をビジネスと割り切る、久慈樹社長らしい考え方だと、ボクは思った。
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