ヒロインショー
ステージで助けを求める、4人の美少女ヒロインたち。
観客席を埋め尽くすのが幼い少女たちなら、『クリッター、頑張れー』と声が飛ぶのだろう。
「ど、どうするよ。お前、叫んでみたら?」
「イヤだよ、恥ずかしい。大体ガキの頃だって、やんねえだろ」
「まあ、観客はほとんど男(ヤロウ)だしな」
アイドルライブに集った観客の大半が、大人の男性客であり、観客席からは困惑の声が続いていた。
「どうしたの、みんな。どうして力を、分けてくれないの?」
クリッター・ピンクのルミナが、必死で手を伸ばし懇願する。
「みんな、アイドルが好きなんでしょ。アイドルの応援に、ハデなハッピ着て恥ずかしいダンス踊っているのだから、恐れるコトは無いわ」
クリッター・グリーンのジゼルが、論理的に訴えた。
「……い、言い方よ。こっちはそれに、命張ってんだ!」
「そうだ、そうだァ!」
ピンクのハッピに頭にハチマキを巻いた中年男性の集団から、ブーイングが発生する。
「ボクたちだって、アイドルなんだ。ダークヒロインであるのと同じくらい、アイドルも好きだよ!」
クリッター・イエローのクロルが言った。
「やっぱ、ダークヒロインなんだ。認めちゃってるし」
「原作アニメを見れば、一目瞭然なんだがな」
「イヤ、今日のステージを見ただけで、一目瞭然だろ」
「て、敵さんも、ずっと待ってくれてます。チョ、チョットでいいから、応援お願いしますゥ」
クリッター・ブルーのホタルが、必死に頼み込む。
巨大なモンスターもステージの上で、攻撃を仕掛ける寸前の状態で、止まったままだった。
「子供向けのステージを、ムリやり持ってこられてもなァ」
「流石にアイドルライブで、ヒロインショーやんの、ムリあるって」
それでも、観客席から声援は返って来ない。
「ああ、もうッ! どうして言うコト、聞いてくれないのよ!!」
モンスターの攻撃でダメージを受けていたハズのルミナが、後転をしながら立ち上がる。
「仕方ないわ。ここは予定を変更よ、ピンク」
「そうね、グリーン。まったく、どうして子供でも出来るコトが、大の大人にできないのかしら?」
グリーンも立ち上がり、ピンクと背中を合わせた。
「大の大人だから、出来ないんだよ!」
ピンク色のハッピを着たオジサンたちが、ボヤく。
「あ~あ。ホントなら、みんなの声援で立ち上がって、ハデに決めるトコなのに!」
「ぶ、舞台進行が、だいなしですゥ」
イエローとブルーも加わって、クリッターの決めポーズを作った。
「そんじゃ、行くよォ。乗りの悪いステージを、盛り上げるんだから!」
4人の少女たちの背後で、連続して爆発が発生する。
「アレ、どれだけ火薬使ってるんですかね。ずいぶんハデに、爆発しちゃってますが」
「ヤレヤレ。警察に出頭させられるのは、ボクなんだからな」
ライブの主催者である久慈樹社長が、冷や汗を垂らしていた。
「クリティカル・テック・ストライカー……アクション!」
ピンクのかけ声と共に、巨大なモンスターに立ち向かって行く4人の少女たち。
ヒロインらしい主題歌が流れ、モンスターとの戦いを繰り広げる。
「完全に、ヒロインショーと化してんな」
「だけど、けっこう乗りのイイ曲じゃねェか」
「これ、アニメのオープニング曲だろ?」
少しずつ、盛り上がって行く観客席。
まばらに応援の声が上がり、ペンライトも揺れ始めていた。
「ピンク・クリティカル・ブーメランキック!!」
『ギャアアアァァァーーーーッ!!』
ピンクの回転蹴りによって、モンスターの獅子の前脚が切断される。
「グリーン・ファントム・シュート!!」
「イエロー・スパイラル・ボルトォ!!」
「ブルー・ガリア・スネークゥ!」
他の3人もそれぞれに技を繰り出し、モンスターの部位を落として行った。
首が落ち、断末魔(だんまつま)と共に炎に包まれ、崩れるモンスター。
「クリティカル・テック・ストライカー。ミッション・クリア!」
惨殺された死骸の前で、クリッターの4人の少女たちは決めポーズを取った。
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