クリティカル・テック・ストライカー
「地球の破滅を目論む、ダーク・フォレスター。今度は、こっちから行くよ!」
アイドルライブのステージで、戦闘員と戦う4人の少女たち。
「クリッター・ピンクの、ピンク・クリティカル・キックをお見舞いだァ。トウッ!」
フリフリのスカートを大きく翻(ひるがえ)し、脚を高く上げて回し蹴りを入れる、ルミナ。
戦闘員は上半身と下半身に分断され、床に崩れて消滅した。
「流石は、切断王女(ギロチン・プリンセス)。情け容赦なく、残酷だぜ」
「で、でも、子供向け番組なんだよね?」
「実は設定年齢は、高いらしい。でも子供が間違って見て、泣き喚(わめ)くって話だぜ」
原作アニメについて、ボクは詳しくは無かったものの、子供が見て泣く姿は容易に想像が付く。
「喰らいなさい、ダーク・フォレスター。グリーン・トルネード・アロー!」
ジゼルが弓に複数の矢を番(つが)え、戦闘員に目掛けて放った。
「今度はドリルみてーな矢が、一斉に飛んでったぞ!」
「敵の身体、貫通しちゃってるし」
「これじゃ、どっちがヒロインだか判んないよ」
原作を知らない観客の多くが、ボクと同じようにドン引きしていた。
「ボクだって、負けてられないね。イエロー・ローリング・サンダー!!!」
クロルの重ねた拳に、電流がバチバチとスパークする。
電気を帯びた2つの拳が、戦闘員たちを次々にブッ飛ばして行った。
「まるでアニメみたいに、戦闘員が宙に飛んで行ってる」
「普通のヒロインのショーじゃ、お目にかかれない演出だな」
「でも戦闘員のお腹、穴が開いちゃってるケドね」
「ヤレヤレだよ。どうやら彼女たちの演出スタッフは、ずいぶんと悪ノリしているね」
流石の久慈樹社長も、呆れ顔だ。
「あわわ、わたしも頑張らないとですゥ!」
クリッター・ブルーのホタルが、背中から黒い甲羅を取って盾として左手に構え、突進する。
「えい、ブルー・パイル・ランサー!」
甲羅に開いた6個の穴から、次々に杭(くい)が撃ち出されて、敵の身体を貫いた。
『グロロ、よくもオレさまの部下たちを、倒してくれたな。だがお前たちの命も、今日までだ』
倒された戦闘員が消えると、ステージには肉食恐竜の身体にドラゴンの翼、獅子の前脚に人の頭部を持ったモンスターが現れる。
「スゲェ、デカいの出て来たァ!」
「一体どうやって、動かしてんだ?」
「あんなのと、戦うの?」
恐竜映画に登場するティラノサウルスのように、全長10メートルはあろうかと思われるモンスター。
『我が暗黒火炎を、喰らえ!』
人の頭部から、クリティカル・テック・ストライカーに向けて、暗黒の火炎を吐き出した。
「きゃあぁッ!」
「イヤァッ!」
悲鳴を上げながらも、側転やバク転で炎をかわす少女たち。
「オオオッ。スカートの中は、ちゃんとパンツだ!」
「チョット、どこ見てんのよ!」
「イデデデデッ」
モンスターは巨体を揺らしながら、黒炎のブレスを吐き散らした。
次第に追い詰められる、クリッターの4人の少女たち。
「こ、このままじゃ、行けない!」
「みんな、わたし達に勇気をちょうだい」
跪(ひざまづ)いたクリッターピンクとグリーンが、会場に助けを求めた。
「ボ、ボクたち、このままじゃ負けちゃうんだ」
「お、お願いします、みんなの勇気ある声を、届けて」
クリッターイエローと、ブルーも観客に願う。
「な、なに言ってんだ、アイツら?」
「ヒロインアニメの映画じゃ、定番の演出なんだがな……」
「まさかソレを、オレたちにヤレってのか!?」
幼い女の子が集っているワケでもない観客席に、動揺が走った。
「クリッター……ホラ、みんなで叫んで。クリッター!」
「お願い、みんな……クリッター」
「ボクたちだけじゃない」
「み、みなさんも、クリッターなんです」
クリッターこと、クリティカル・テック・ストライカーの4人の少女たちは、強引にステージを推し進める。
「オ、オレたちは、別にクリッターじゃないんだがな」
「胴体真っ二つにするヤツらの、仲間になんてなりたくねェよ」
けれども会場の反応は、すこぶる悪かった。
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