鏡の中の死闘
「どうした。なにか、言ったか?」
アッシュブロンドの長髪の、少年が問いかける。
「イヤ……なんでも無いさ、ティ・ゼーウス」
サタナトスは、それ以上は自分の素性を明かさなかった。
「まあいい。そんなコトより、さっさとここから抜け出さねェとな」
ティ・ゼーウスも、深く追及はせず、次元迷宮(ラビ・リンス)からの脱出を優先する。
「ダエィ・ダルス。ボクたちをミノ・ダウルス将軍の元へと、案内してくれないか。戦いに参加しろとはモチロン言わないし、その後は逃げるなり好きにすれば良い」
サラサラの金髪をかき上げながら、眉も動かさずに断言するサタナトス。
「ミノ・ダウルス将軍には、お前の剣の能力は通じないのだぞ。勝算は、あるのか?」
薄汚い姿の男は、自らを繋いでいた鎖の欠片で、伸び放題だった髭(ひげ)を剃りながら問いかける。
「勝算があるとしたら、ボクの旧知の友が追いついて来て、なんとかしてくれるのを願うくらいだね」
「オイオイ。一向に来る気配のない友達を、まだ当てにしてるのか。だったら、オレを……」
「その者なら、もう直ぐここに辿り着くだろう」
ティ・ゼーウスの愚痴を遮(さえぎ)る、ダエィ・ダルス。
「そんなコトが、解かるのか?」
「自分の創った、次元迷宮内部のコトだからな」
少しだけマシな顔立ちになった、天才建築家が言った。
「ヤレヤレ。ケイダンのヤツ、やっとミノ・テリオス将軍を倒したのか」
「イヤ。その者も、まだ生きておる。重傷は負っているがな」
「どうやら、お前の旧知の友ってヤツも、当てにはならん様だな」
「ホントだよ。まったく、なにをやっているのやら」
ティ・ゼーウスに皮肉を言われ、イラつくサタナトス。
「相手も、中々の手練れだったのだろう。ミノ・ダウルス将軍を倒すのであれば、少しでも戦力が多い方が良いのではないか?」
「そりゃ、そうだがよ。仕方ない、待ってやるか」
3人は、ケイダンを待つ選択をする。
~ケイダンこと魔王ケイオス・ブラッドと、雷光の3将が筆頭ミノ・テリオス将軍との戦い。
その決着は、少しだけ時を遡(さかのぼ)る~
鏡の世界に、閉じ込められたケイオス・ブラッド。
周りを取り囲んだ無数の鏡に映る、自分自身。
「クッ! まさか自分の攻撃を、受けるハメになるとはな」
万華鏡の中のように、無数に投影されたケイオス・ブラッドが、次々と魔王本体に襲い掛かった。
「鏡の投影の分際で、勝手に動いて主に牙を剥(む)くなど、気に喰わん!」
師匠譲りのバクウ・プラナティスで、襲い来る自分自身の群れを斬り裂く。
「無駄だ。我が剣ジェイ・ナーズの生み出した鏡の世界では、鏡に映ったお前が傷付けば、お前自身も傷付くのだ」
鏡の世界に響く、ミノ・テリオス将軍の声。
「ガハッ!?」
雷光の3将が筆頭の言葉通り、バクウ・プラナティスの付けた傷が、ケイオス・ブラッド自身の身体にも刻まれた。
完全に裂かれた胸や腰から、ボタボタと紫色の血が流れ落ちる。
魔王と言う特異な存在で無ければ、とっくに絶命してもおかしく無いホドの傷だ。
「フッ、こんなモノか……」
魔王ケイオス・ブラッドは、自らの流した紫色の血溜まりを見つめる。
「そろそろ、トドメを刺させて貰うぞ。覚悟しろ!」
ミノ・テリオス将軍の声と共に、周囲の鏡に映った魔王ケイオス・ブラッドが、本体目掛けて剣を突き立てる。
「イヤ、それはオレの台詞だ」
鏡の剣に精神を集中させた、ミノ・テリオス将軍の背後の壁に空間が開いた。
「……なッ!?」
「油断したな」
空間から現れた魔王が、バクウ・プラナティスを1閃する。
「フッ、それはわたしの台詞と、言ったところか」
けれども時空を斬り裂く剣は、ミノ・テリオス将軍の前で阻まれる。
「お、お前は!?」
驚きの表情を浮かべる、ケイオス・ブラッド。
魔王の前に立っていたのは、蒼い髪の少年だった。
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