ヤンキー娘たち
ステージに出現した、黒い摩天楼のビルの群れ。
ミニスターⅢ(サード)コアの4人の少女たちは、ロカビリーの低音の利いた演奏と、ハスキーボイスの歌声を会場に響かせる。
「今度は、ヤンキー姉ちゃんたちかよ」
「ロカビリーを歌う女性アイドルってのも、珍しいな」
「まァ雅楽よりは、アリなんじゃね?」
モノ解りの良い観客たちの頭上のドームには、星の無い空が広がっていた。
ドームの周囲には、ビルや工場の影が投影されている。
演出された都会の夜空には、真っ赤な下弦(かげん)の月が浮かんでいた。
「まずは1曲、挨拶替わりに披露してやったぜ」
レッティが、スタンドマイクを両手で包み込みながら、観客に語りかける。
手には、鋲(リベット)の打たれた黒いグローブをしていた。
「アタシは、フルーレティを司る、レッティだ。フルーレティってのが、どんな悪魔なのかも知らねェケドな。たぶんスタッフのヤツらが、テキトーに決めたんだろうがよ」
ハスキーボイスの持ち主は、会場に向かって愚痴をこぼす。
「ンじゃま、メンバーを紹介してやっぜ」
レッティの艶やかに光るレザーの繋ぎは、ヘソやお尻などが大きく露出していた。
その上に、クリムゾンレッドと黒のチェック柄の、ミニスカートを穿(は)いている。
銀色の鋲(リベット)が打たれた黒いコウモリの翼で両肩を覆い、お尻からは矢印型の悪魔のシッポが生えている。
「まずは、ベース。バシンを司る、青刃 静玖(あおば シズク)だ」
レッティが黒いギターを鳴らし、手を伸ばした方向には、ベースを抱えた少女が居た。
「シズクだ。ヨロシク」
短すぎる挨拶の後、黒に銀色の縁取りをしたベースで、重低音なリズムを刻む。
ヒヤシンスのような紫色の長髪を、垂直に立てたヘアスタイルのシズク。
露出の多い繋ぎはレッティーと似たデザインだが、紫と黒のチェック柄のミニスカートを穿く。
宝石が散りばめられたコートを羽織り、お尻から伸びた銀色のヘビのカタチのシッポが、左の太ももに巻き付いていた。
「オイ、シズク。もっとこう、他に語るコトとか無いのかよ」
「無い……」
キッパリと言い切る、シズク。
「ベースマンらしいっちゃらしいが、ステージだとマジ最低限しか喋らねェから困るぜ」
レッティは、仲間の口数の少なさに呆れた。
「まあいいさ。気を取り直して行くぜ」
再び黒いギターを鳴らすと、今度は逆の方向に顔を向ける。
「サックスの、熊谷 玲於奈(くまがい レオナ)だ。司る悪魔は、プールソンだ」
レッティの紹介と共に、スポットライトが別の少女の上に落とされた。
「サックスの、レオナだよ」
おもいきり息を吸い込んで、情熱的にサックスを鳴らすレオナ。
ステージや会場が映り込んだサックスから、次々に艶(つや)のある音が湧き出して来る。
「レオナは、オヤジがアメリカ人なんだ。今は日本で、ジャズの生演奏が聞けるレストランをやってるケドさ。ちなみにレオナは、見た目が外人だケド英語は喋れないから、そこんとこヨロシク!」
レオナは、ライトブラウンのカーリーヘアに青い目、日焼けした肌をしていた。
やはり露出の多い黒の繋ぎに、マスカット色と黒のチェックのミニスカートを穿く。
大きなクマの毛皮のコートに、お尻から伸びた黄金の2匹のヘビが、両足に巻き付いていた。
「最後は、ドラムの宇童 阿寅(うどう アトラ)だ。象徴する悪魔は、アビゴル」
今度はスポットライトが、レッティーの後ろに落ちた。
「ウチが、アトラや。今日は、ハデに行くがや!」
派手な装飾の黄金のドラムセットを打ち鳴らす、小柄な少女。
吊り上がった黒い瞳に、金髪のソフトモヒカンをしていた。
露出の多い黒の繋ぎに、黄色と黒のチェック柄のミニスカートを穿く。
上半身に虎柄のコートを羽織り、お尻からは虎のシッポが伸びていた。
「今日はホンマは、天空教室のヤツらのテストなんやろ。ウチのライバルの、レノンも試験受け取るらしいな?」
アトラはナゼか、ボクの生徒の1人の名前を口にした。
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