タンガタ・マヌー
「な、なんだい、味方か?」
「見たコト無い機体だし、オヤジの仲間だろうよ」
「どっちにしろ、有り難いね」
ジャガー・グヘレーラーに乗る、セシル、セレネ、セリス・ムラクモの3人が言った。
「アタシは、真央だ。さっきは、助けてもらったからね。直ぐに恩を返せて、良かった」
蒼いサブスタンサーを駆る、真央。
落下攻撃を繰り返す巨大ザルのアーキテクターを、両腕の拳で撃破する。
「真央か。助かったよ」
「戻って来て、くれたんだね」
「その機体は、アンタの専用機(オリジナル)かい?」
前衛を得た3機のジャガー・グヘレーラーは、壁面に張り付く巨大グモや、ホバリングし襲ってくる巨大ハチドリを、アサルトライフルで掃射した。
「宇宙斗艦長が、知らない間に造ってくれたんだ。名前は、タンガタ・マヌー。アタシが、名付けた」
タンガタ・マヌーは、蒼い身体の背中から巨大な翼を生やしている。
顔は鳥のようで、長いクチバシを持っていた。
「とりあえず、セノーテに張り付いたとんでもない数の敵を、どうにかしねェとな」
タンガタ・マヌーは、蒼い翼を広げて飛翔する。
「アンタのサブスタンサーは、空中戦もできるのかい?」
「だが気を付けな。大グモが網を張って、獲物が掛かるのを狙っているぞ」
「ハチドリも、大きなクチバシで刺そうと待ち構えてやがる」
「心配は、要らないさ。クロノ・カイロスのサブスタンサーは、基本性能が違うんだ」
真央のサブスタンサーは、鋭利な翼で大グモのネットを切り裂き、ハチドリの翼をも切断した。
「オラオラ。ナスカの地上絵から抜け出して来た連中が、大量に群がりやがって」
「さっさと絵の中に、帰んな」
「もっとも地上絵は、とっくに水没して消えちまってんだがな」
1000年の時の経過は、有名な地上絵が地球上から姿を消すには十分過ぎる時間である。
セシルたちは、落下してくる敵に弾丸を叩き込んだ。
「敵の勢いが、弱まったよ」
「これだけの数を、倒したんだからね」
「どうだい、真央。敵は、せん滅できそうか?」
「イヤ、第1波を乗り切っただけだ。天井の上に、敵の巣があるみたいだ」
タンガタ・マヌーは、大グモが開けた天井の大穴から中を覗き込む。
真央が見たのは、暗闇に蠢(うごめ)く大量の赤い眼だった。
「敵の巣だって。敵がどこからともなく、沸いて出るってのかい」
「そんなコト、あり得な……イヤ、あり得るぞ!」
「アタシらがオヤジたちと仕留めた、シュガールってヤツと同じだ」
「第2波が、飛び出て来るぞ。気を付けて」
真央のサブスタンサーが大穴を離れると、中からおびただしい数のクモやハチドリ、大ザルらが溢(あふ)れ出す。
濁流の如き敵の群れは、1気にセノーテの床へと落下し、1面を埋め尽くした。
「ギャアァァ、キモチ悪いねェ!」
「これだけ密集してんなら、どこ撃っても当たるよ」
「だけど、数が多すぎる」
3機のジャガー・グヘレーラーは、次第に敵の渦に飲まれて行く。
「セシル、セレネ、セリス、大丈夫か!」
上空から味方のピンチを察したした真央は、落下して敵に攻撃を仕掛けた。
「クソ、ダメだ。あまりにも、敵が多すぎる」
けれども攻撃は焼け石に水で、セシルたちを救援するには至らない。
「ヤバいぞ。銃の弾が、尽きちまった。予備のパックも、全部だ」
「これだけ弾を、バラまいてんだ。当然か……」
「仕方ない、白兵戦に移るよ」
ジャガー・グヘレーラーは、元々装備していたラウンド・シールドに収まっていたシミターを構えて、襲い来る敵を斬り裂いた。
けれども遠距離攻撃用に設計された機体は、直ぐに劣勢に立たされる。
「クッソ、クモの糸に、絡めとられちまった」
「これじゃ、身動きが取れな……」
「こんなところで、死にたく……な……」
「セシル、セレネ、セリスーーーーーッ!」
真央の叫び声が、無常に木霊(こだま)する。
ジャガーの頭を持った3機の機体は、完全に敵の群れの中に吞み込まれ、消えた。
前へ | 目次 | 次へ |