ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第13章・55話

ジェイ・ナーズ

 ~時は、僅かに遡(さかのぼ)る~

 アステ・リアが、サタナトスの手にかかるのと、ほぼ同時刻だった。
ミノ・テリオス将軍を討ったケイダンは、彼が守護していた迷宮を、王の間に向かってひた走る。

「これが、ラビ・リンス帝国の誇る要塞迷宮か。もうかなりの距離を走ったつもりが、まるで抜け出る出口が見い出せない」
 ケイダンの視線は、手にした錆びた青銅色の石のような剣にあった。

「やはり、お前の能力が必要か。ミノ・リス王の居場所も判らぬのに、闇雲に飛ぶのも迂闊(ウカツ)と考えたのだが、致し方あるまい」
 ケイダンは、刻影剣・バクウ・プラナティスを振り、時空に裂け目を造る。

「な、なにィ!?」
 時空の裂け目から現れたのは、ケイダン自身だった。

「何処へ行くつもりだ、偽者め。キサマは、何者だ」
 時空の裂け目を抜け出たもう1人のケイダンが、ケイダンに向かって襲い掛かる。

「そ、それは、こちらのセリフだ……」
 ケイダンも剣を抜き、2振りのバクウ・プラナティスが斬り結んだ。

「ど、どうなっている。どうしてオレが、時空の狭間から現れた?」
 自分自身を相手にして、疑問を解き明かせないケイダン。

 2人のケイダンは、互いに1閃を放った後、別々の場所に着地する。

「偽者にしては、やるな。だが、剣の能力まではマネ出来まい」
 ケイダンは、再びバクウ・プラナティスで時空を切り裂いた。

「な、なんだとォ!?」
 新たな裂け目の中には、偽者とは違ったまた別のケイダンが立っている。
3人目のケイダンも、バクウ・プラナティスで襲い掛かって来た。

「ど、どうなっている。バクウ・プラナティスの能力が、おかしくなっているのか?」
 2人のケイダンに相対しながら、次第に追い詰められる本物のケイダン。

「仕方あるまい!」
 ケイダンは、魔王ケイオス・ブラッドの姿へと変化する。
長い黒髪はそのままに、腕や脚の外側は紫色の鱗で覆われ、頭には長い角が伸びていた。

「どうだ、これで……!?」
 ケイオス・ブラッドは、驚愕(きょうがく)する。
今まで戦っていた2人のケイダンも、魔王の姿へと変化していたからだ。

「な、何が起こっていると言うのだ。これは、まるで鏡の中の自分と……」
 そう言いかけて、ケイダンはあるコトに気付く。

 彼は右手でバクウ・プラナティスを握っていたが、偽者のケイオス・ブラッドは2人とも左手で、錆びた青銅色の石のような剣を握っていたのだ。

「なるホドな。そう言うカラクリか!」
 ケイダンは、バクウ・プラナティスを1閃する。
けれどもそれは、時空を切り裂く為のモノではなく、別のモノに向けられた1撃だった。

 2体のケイオス・ブラッドの立つ空間が、鏡のようにひび割れる。
やがてケイダンの周囲全ての空間が、粉々に割れて砕け散った。

「キサマの仕業だったか、ミノ・テリオス将軍」
 回廊の壁に背中を預ける、瀕死(ひんし)の男に視線を向ける、ケイオス・ブラッド。
彼は黄金の鎧を纏(まと)い、脇腹に重傷を負っていた。

「とっくに息絶えたと思っていたが、オレの1撃を僅かにかわしていたか」

「ある者の、助言があってな。そうでなかったら、お前の言う通り死んでいただろう」
 ミノ・テリオス将軍は、鏡のような剣を抜き、石レンガの床に刺していた。

「オレを惑わせたのは、お前の剣の能力だな」
 ピンク色に輝く目をした、ケイオス・ブラッド。
6枚のドラゴンの翼を広げ、瀕死の男に近づいて行く。

「そうだ。我が剣、ジェイ・ナーズの能力は、鏡。お前を、鏡の世界に閉じ込めたのだがな……」

「瀕死の身でありながら、このオレを僅かでも足止めしたのだ。大した能力だよ」
 ケイオス・ブラッドは、ミノ・テリオス目掛けて剣を振った。
黄金の鎧の将軍は、鏡のように砕けて四散する。

「終わらんよ。まだ鏡の世界は、終わっていない」
「この期に及んで、まだオレを惑わす気か」

「ああ。このオレにも、守りたいモノが出来た。戦争しか知らなかった、このオレにな」
 ケイオス・ブラッドの周りを埋め尽くす、無数の鏡。
全ての鏡に、ケイオス・ブラッドの姿が映っていた。

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