襲撃のセノーテ
執務室に鳴り響く警報に、危険を視覚的に認知させようとする赤いランプ。
「敵は、何処だ。オレは、サブスタンサーで出るぞ」
即座に反応したかつての少年兵は、返事を待たずに部屋を飛び出す。
「アフォロ・ヴェーナーで解析したわ。敵は、このセノーテを取り囲むように、天井と地下トンネルから進入して来てる」
彼の相棒(バディ)であるトゥランが、後ろを走りながら情報を提示した。
ショッピングモール風のセノーテの街は、次々に防護シャッターが閉められ人の姿も消える。
熱帯の木々が生い茂る中庭を、動物や鳥が甲(かん)高い声を上げながら逃げ惑っていた。
「爺さん、アタシらも出るよ」
「ココを護る部隊も、アタイらくらいしか居なくなっちまったからね」
「時の魔女がどんなヤツか知らないが、ここはアタシらの生まれ故郷なんだ」
セシル、セレネ、セリスの長女3姉妹も、執務室から格納庫へ向かって走って行った。
「アタシらも、行こう」
「姉さんたちだけじゃ、戦力が足らな過ぎるからね」
「ドス・サントス代表。ココを、任せても構いませんか?」
テル・セー・ウス号との通信を担っていた、マレナ、マイテ、マノラが、実の祖父に問いかける。
「ああ、任せな。オペレーターを出来るヤツは居るが、戦える戦力が圧倒的に足りねェからな。適時情報を、出させるぜ」
血縁関係のある者同士、大した言葉も交わさずに状況を理解し合い、3人も姉たちの背中を追った。
「ヤバ、アタイら出遅れた」
「今日の夜は、パインサラダとステーキ食べる予定だったのにィ」
「バカ、それ死亡フラグ!」
末っ子のチピリの娘であるシエラ、シリカ、シーヤ3人も、奔放(ほんぽう)な会話を交わしながら姉たちの後を追う。
「マケマケ、わたし達も行くのです。おじいちゃんの娘さん達を、死なすワケには行きません」
セノンが、キャラメル色のソファから立ち上がった。
「そうだな。アタシらも、宇宙斗艦長にサブスタンサーを造って貰ったんだし」
「お披露目も、まだだった……」
「まさかこんなカタチで実戦投入するとは、思っても無かったケドね」
真央、ヴァルナ、ハウメアの3人も、直ぐに同意し格納庫へと向かう。
「あぅ~、待って下さいなのですゥ~」
言い出しっぺのセノンが、3人の背中を追った。
「見ろよ。上の方に被弾しちまってるぜ」
真央が、燃え盛るセノーテの天井を見上げながら、言った。
「敵がすでに、進入して来てる……」
「急がないと、サブスタンサーに乗り込む前に死んじゃうよ」
「そ、そんなの、ヤなのですゥ!」
4人の少女たちは、戦火の中を必死に走る。
すると、蜘蛛のようなカタチをした1機の敵機体が、天井の穴から落下して来て、少女たちの行く手を塞いだ。
「うわァ、マズいぞ!」
「進路を阻まれた……」
「生身で、対処できる相手じゃ無いよ」
それぞれのチューナーを展開しつつも、少女たちの頭に死が過(よ)ぎる。
巨大な黒い蜘蛛は、牙を立てて少女たちに襲い掛かった。
「お、おじいちゃん……」
咄嗟に、クワトロテールの1つを束ねる、ハートの髪飾りを握りしめるセノン。
その時、目の前の巨大な蜘蛛は下からの銃撃を浴び、壁に激突し落下して行った。
「大丈夫かい、アンタら」
「ここは危険だよ。客人は、安全なトコに退避してな」
「アタシらのセノーテは、アタシらで護り抜く」
蜘蛛を銃撃で屠った、ジャガーの女戦士スタイルのサブスタンサーの、パイロットたちが叫ぶ。
それは、9姉妹のウチで最初に部屋を出た、セシル、セレネ、セリスの3人だった。
「助かったぜ。だケド、そうも言ってられないだろ。ヴァルナ!」
「わかった、真央……」
「ホラ、セノンも行くよ」
ハウメアが、セノンを抱きながら手すりを越えて跳ぶ。
真央とヴァルナも続き、手すりから吹き抜けの空間に向ってジャンプした。
「な、なにしてるんだい、アンタたち!」
「うわあ、早く受け止めないと」
「……って、アレ?」
空中に飛んだ4人の少女たちは、アクアマリン色の水に包まれている。
その一端が手すりに結び付き、水のロープとなって少女たちをセノーテの底へと辿り着かせた。
「な、なんだよ、そのヘンな水は?」
「もしかして、チューナーってヤツかい?」
ジャガー・グヘレーラーに乗った長女3姉妹から、質問される少女たち。
「そう、わたしのチューナー、アクア・エクスキュート……」
水の正体は、ヴァルナのチューナーだった。
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