スぺラード・ブラックウィングス
ミニスターⅠ(ファースト)コアよるバラード曲が終わっても、巨大なドーム会場に鳴り響く万雷(ばんらい)の拍手は、なかなか鳴りやまなかった。
「今日は、突然のゲリラライブにお集まりいただき、またわたし達の歌を聞いていただき、本当に有難うございました」
丁寧なヨーロッパ風の挨拶(カーテシー)をする、サツキ。
「ミニスターⅠコアとわたし達の名前、ちゃんと覚えて行ってね」
無邪気に両手を振る、コズエ。
「だケドよ。次はオレたちの名前で、ココを満員にしてやっからな」
観客席に拳を向ける、アキラ。
「その前に、わたし達のシングルも出るから、よろしくゥ」
親指を立てグッドサインをする、トウカ。
4人の冥府のアイドル(ベルセ・ポリナー)たちは、それぞれの個性によって観客に、ステージの終了を告げた。
「見事なライブであったよ、サツキ。キミの盟友であるミカドが、認めたアイドルだけのコトはある」
ライブを終えた、ミニスターⅠコアの4人の少女たちを、ステージ裏で出迎える久慈樹社長。
「お褒めに預かり、光栄ですわ」
久慈樹社長に対し、サツキはアイドルスマイルを向ける。
「ところで、キミたちの持ち歌もこれで終わりかい?」
「はい。本番に間に合わせるコトが出来たのは、残念ながら2曲のみです」
「そうか。ソイツは、残念だ」
久慈樹社長はステージに歩み出ると、ステージに背中を向けて、ガラスの塔を仰(あお)ぎ見た。
デジタル時計のカウントダウンは、やっと25分に差し掛かる。
「ヤレヤレ。これからボクのトークだけで、どこまで繋ぐコトが出来るだろうか?」
学力テストのライブをやると豪語した、久慈樹社長。
けれども、テストを受けるところを見せられた観客は飽きてしまい、場繋ぎに悪戦苦闘していた。
「なるホド。そう言うコトでしたら、ご心配には及びません」
サツキが1人の少女を見て、ニコリとほほ笑んだ。
「ミニスターⅠコアの持ち曲は終わっちゃったケド、ソロ曲ならあるよ?」
リーダーの視線の意味に気付き、社長に提案するコズエ。
「ウチらのソロ曲、お披露目しても構わないのかな?」
飄々(ひょうひょう)とした言葉で、社長に決断を求めるトウカ。
「国語の学力テストが終わるまでの25分間、キミたちが好きに使ってくれ」
「やったぜ、社長のお許しがでたぞ。ソロ曲1番手は、オレが行くぜ!」
黒いバサバサの短髪に、リアルなフクロウの帽子を乗せた少女が、強引に許可を求めた。
「任せたわ、アキラ。先陣こそ、貴女に相応しいモノね」
「褒めてんだか、けなしてんだかわっかんねェケドよ。先陣、うけたまわった!」
コウモリの黒い翼を広げ飛翔したアキラは、会場の上空を滑空し始める。
「やっぱ、レアラとピオラの舞台演出は最高だぜ」
アキラの近くに、デジタル映像の爆発が幾重にも炸裂した。
アモンをモチーフとする少女は、アクロバティックな動きで爆発をかわし続ける。
「オッッシャ、行くぜ。スぺラード・ブラックウィングス!」
アキラのかけ声と同時に、背中の黒い翼が大きく広がり加速した。
「ス、スゲェ。ロボアニメの戦闘シーン張りの、スピード感だぜ」
「よく、空中でアクロバティックに飛んでいて、ふつうに歌えるな」
「アキラ、カッケーぜ!」
どこか哀愁も兼ね備えた、雄々しい歌声のアキラ。
悪魔の正体を隠して人間界に忍ぶ少女の想いを、見事に歌い上げる。
「あのコも、事務所に入ったばかりの時は、体力はやたらとあっても、歌唱力となるとどうかと思っていたケド、成長していたのね」
宙を飛び回るアキラを見上げながら、ミカドが呟く。
「フフ。そうよ、ミカド。アキラは、粗削りなところもあるけれど、そこもあのコの魅力なの」
ユニットのメンバーを盟友に自慢する、サツキ。
天に拳を突きあげる、アキラ。
彼女から出たオーラの光は、ドーム会場の天井に向って伸びていた。
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