ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第32話

カウントダウン

 最新鋭の巨大なドーム会場で、大勢のファンたちに囲まれながら、ボクの生徒たちの学力テストは開始されようとしていた。
そんな中、久慈樹社長の口から告げられた、重大な発表。

「今、なんと仰ったのですか?」
 聞き返すまでもなく、発表の内容は正確に記憶している。
けれども、口が反射的に動いていた。

「冥府のアイドル(ベルセ・ポリナー)たちも、今日キミの生徒たちが受けるテストと、同じテストを事前に受けさせたと言ったのだよ」

「冥府のアイドル、72人全員にですか?」
「ああ、その通りだ」
 冥府のアイドルは、ミカドやミクたちを含め、総勢で72人居るらしい。

「ただし、彼女たちには1ヶ月間、ユークリッドの教育動画を決まった時間、視聴させた。視聴場所はエウクレイデス女学院の教室の場合もあれば、自宅やアルバイト先で動画を見て勉強したケースもある。そうした上で、彼女たちはテストを受けている」

「要するに彼女たちは、『ユークリッドの新たな教育』の代表ってことですか?」
 ボクの問いかけに、久慈樹 瑞葉はニヤリと微笑んだ。

「察しが良くて、助かるね。テストは、ユークリッドの本社で行ったよ。100点満点の採点で、国語、数学、理科、社会、英語の5教科だ。答案用紙も答えも、キミの生徒たちが受けるテストと、まったく同じ内容だよ」

「結果は、どうだったのです?」
 ボクは、恐る恐る質問する。

「その前に……だ。彼女たち冥府のアイドルについて、話しておこうじゃないか」
「はい。それは、そうですね」

「彼女ら72人の中には、ミカドやミクらのように最初からある程度の学力を持ち合わせたヤツも居る。だが、大半はバカだ。見た目が可愛いだけで、オツムの方は高性能にはホド遠いヤツらばかりさ」
「自分で集めて置いて、ヒド過ぎませんか?」

「事実だから、しょうがないだろう。彼女たちは、エウクレイデス女学院の生徒か、生徒候補だ。家庭環境的に、致し方ない部分もあるがね」

 エウクレイデス女学院は、倉崎 世叛の願いによって設立された学校法人だ。
教育民営化法案やユークリッドの台頭で、職を失った教職員や専門学校講師らが親の、家庭の子供たちを保護する目的で創られ、その受け皿となっている。

「家庭環境に恵まれず、教育の機会を十分に与えられなかったコたちだと?」
「それでも、ユークリッドの動画を見るコトくらいはできるハズだが、勉強するコトに価値を見出せなかったのだろう。最終的には、金で解決したが」

「金を払って、動画を見させたってコトですか?」
「本人が望まないコトを、やらせるんだ。金を払うのも当然だろう」
 どこまでも合理的な、久慈樹社長。

「さて、テスト結果だが、全員が及第点……とは行かなくてね」
 肩を竦(すく)める、久慈樹 瑞葉。

「いわゆる赤点ラインが、全科目で19名居る。国語で1名、数学が7名、理科で4名、社会で8名、英語で11名。つまり、複数科目で赤点のヤツが、複数居ると言うコトだ」

「そう……ですか。ユークリッドの教育動画でさえ、万全とは行かないのですね」
 ボクの中に、ホッと胸を撫で降ろす自分がいる。
教師としては失格なのだろうが、それが素直な気持ちだった。

「バカなヤツは、まあバカなのだろう。集中力が無かったり、サボったりと、人間の多様性と言ってしまえば、それまでだがね」
「確かに言語能力や身体能力は、遺伝に寄るところが大きいとの研究もされてますが……」

「それでも53人は、70点以上の合格ラインを全ての教科で超えている。ユークリッドの動画を見る前は、5教科全てで赤点のヤツも含まれているのだよ」

 勉強のやり方がわからなかっただけで、コツさえ掴めばやれるコたちも居る。
ユークリッドの教育動画は、義務教育では拾えなかったコたちを、拾い上げているのは確実だった。

「前置きはこれくらいにして、テストを始めようじゃないか」
 会場に向け、大きく手を広げる久慈樹社長。
背後のガラスの塔に、カウントダウンの数字が現れた。

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