複雑な勝敗の行方
力こそが正義を謳(うた)う国にあって、必死に力を示し続けて来たミノ・アステ将軍。
美しき顔や褐色の豊満な身体も、今や血にまみれドロに汚れている。
「これがわたしの最後の攻撃だ、少年!」
全ての力を振り絞った稲妻のような鞭が、舞人を襲った。
「すみません。ボクは貴女より、強いんです」
舞人の居た場所が、雷撃による爆発で大きく吹き飛ぶ。
けれども鞭が届く寸前に、舞人は女将軍の右隣りに移動していた。
「な……ガハッ!?」
舞人の右拳が、女将軍の溝落ちに食い込んでいる。
「でもボクの強さは、この剣によって与えられたモノだ。貴女のように、努力して得たモノじゃない」
気を失い倒れるミノ・アステ将軍を、抱きとめる蒼き髪の勇者。
「この勝負……ボクの負けです」
闘技場の地面に、女将軍をそっと降ろす舞人。
「オイオイ、どうなってんだよ!」
「美人の女将軍が気ィ失ってんのに、アイツ負けを認めちまったぞ」
「ど、どっちが勝ったんだよ、この試合?」
舞人の宣言に、闘技場の中をざわめきが駆け巡った。
「ご主人サマよ、どうするつもりじゃ。勝手に負けを、宣言しおって。これでは、ミノ・リス王に謁見するコトも、叶わぬぞ」
呆れ顔のルーシェリアが、舞人を見ている。
「それは困ったな。どうにか他の方法を、考えないと」
「ど、どうすンだよ、蒼き髪の勇者さん」
「この国じゃ、敗者は全てを失うんだろ?」
「オレらも早いとこ、ズラかった方がイイんじゃね」
両肩に年端も行かぬ少女たちを抱えた、3人の船長が言った。
「人さらいたちの言うコトも、1理あるぞえ。負けを宣言したとあっては、さっさとこの闘技場を去るのが上策やも知れぬ」
「だから、人さらいじゃねェっての!」
ルーシェリアの絡みに、反論する船長たち。
「その必要は、無い」
勇ましい声が、闘技場に轟(とどろ)いた。
舞人やルーシェリア、3人の船長たちの視線が重なった先に、黄金の鎧を着た男が立っている。
鎧には五芒星が大きくデザインされ、2本の折れた角の生えた黄金の兜を被っていた。
「お主は、誰じゃ?」
1番男に近かった、ルーシェリアが問いかける。
「我が名は、ミノ・テリオス。雷光の3将が、筆頭よ」
黄金の兜からはディープロイヤルパープルの髪が覗き、深い湖のようなターコイズグリーンの瞳が、静かに舞人たちを見ていた。
「雷光の3将の、面汚しが。負けを認めぬどころか、若輩の少年に情けまでかけられるとはな」
名を名乗った黄金の鎧の男は、ルーシェリアの前を通り過ぎ、倒れた女将軍の前で片膝を付く。
「次はお主が、妾たちの相手になると言うコトかの?」
「イイヤ、戦いはすでに終わっている」
ミノ・テリオス将軍は、気を失っているミノ・アステ将軍を抱え上げた。
「ホウ、気付かなかったのじゃ。戦いの結果とやらを、教えてはくれぬかえ?」
「お前たちは、闘技用の怪物たちを一掃し、ミノ・アステ将軍の側近をも降した」
「つまり、妾たちの勝ち……と言うコトで、良いのじゃな?」
「そうだ。この国では、闘技場での勝者には絶対的な権利を与えるのが、習わしでな。敗れた小娘どもは、お前たちの好きにするが良い」
ミノ・テリオス将軍は、堂々とした態度で言い放った。
「す、好きにするッ、つったってよォ!」
「本物の人さらいに、なる気はねェぜ」
「コイツらは、返す」
両肩に担いだ少女たちを、降ろそうとする3人の船長。
「そうか。だがこの国では、敗者に人権など無い。集まった観客どもに弄(もてあそ)ばれ女を蹂躙されるか、魔物のエサになるか見モノだな」
「チョッ、タンマ。い、今の無し!」
「し、仕方ねェな。とりあえず、貰って置いてやるよ」
「それにしたって、物騒な国だぜ」
「ならば妾の倒した6人も、ついでにさらってはくれぬかの?」
「言い方があんだろ。ええい、わかったよ!」
ティンギス、レプティス、タプソスの3人は両肩に、4人の少女たちをそれぞれ担ぎ上げた。
「それで、お主が大事そうに抱えている、女将軍についてはどうなるのじゃ?」
「難しいところだな。実質的な戦闘では、ミノ・アステの負けではある。だが、その少年は、自ら敗北を認めた」
ターコイズグリーンの瞳が、蒼き髪の勇者に向けられた。
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