力こそ正義
「フウッ、ヤレヤレ。恐ろしい、娘たちだったぜ」
「で、でもよ。なんとかなったな」
「オレたちの、勝ちか……」
疲れ果てた3人の背の高い船長たちが、重い足取りでルーシェリアの元にやって来る。
「お疲れじゃの、人さらい共よ」
ルーシェリアが、ジト目で言った。
ティンギス、レプティス、タプソスの3人の船長の両肩には、12歳くらいの少女が2人ずつ、荷物を担ぐように抱えられている。
「なんでオレらが、人さらいなんだよッ!?」
「小娘を両肩に抱えた男が3人、人さらいにしか見えぬわ」
ちょうど船長たちの頭の両脇に、スカートに覆われた少女たちのお尻がある格好だ。
「し、仕方ねェだろ。コイツら、強くてよ……おわッ!」
ティンギスが文句を言っていると、闘技場に激しい海風が吹き、少女たちのスカートが舞い上がる。
「おおっとッ、危ねェ!」
慌てた船長たちは、両手でスカートを押さえつけた。
「小娘どもの尻を触るとは、人さらいで間違いあるまい?」
「だから、違うって……」
ルーシェリアは、船長の言い訳に耳を貸さず、舞人たちの方を見る。
「あの女将軍、まだ倒れてはおらぬ様じゃな」
漆黒の髪の少女の紅の瞳は、闘技場の壁に叩き付けられたミノ・アステ将軍を映していた。
「わ……わたしは、ここで負けるワケには、行かんのだ」
全身に傷を負いながらも、立ち上がる女将軍。
「クッ、勝負はまだ終わっておらぬぞ。もう1度、わたしの剣を喰らえ!」
ミノ・アステは、再び剣を振るうと、剣身にらせん状に巻かれた鞭が伸びて、舞人を襲った。
「いえ、もう勝負は付いてますよ。そんな身体で、戦えるハズが無い」
舞人の言った通り、鞭に今までの勢いは無く、あっさりと振り払われる。
「わたしは、負けるワケには行かんのだ!」
手負いの女将軍は、レイピアのような細身の剣となったアステ・リアで、連続で突きを繰り出して舞人を刺殺しようと試みた。
「貴女はどうして、そこまで勝ちにこだわるんです?」
舞人は、攻撃をジェネティキャリパーでいなしながら、真意を探ろうとする。
「ここがクレ・ア島の、ラビリンス帝国だからだ!」
「力が全てって、コトですか」
「そうだ。ラビリンス帝国は、力こそ絶対であり強者こそ正義。敗れれば、全てを失うのだ」
「失うって、いったい何をです?」
「全てだ。地位も、名誉も、家族も……女としての尊厳さえもな!」
雲のようなまっしろな髪も、褐色の肌も血に染まり、それでも必死に攻撃を続けるミノ・アステ将軍。
「女としての尊厳って……」
アステ・リア本体のレイピアでの突きと、鞭による変則的な攻撃が、舞人を襲う。
「ここに集っている、男どもはな。わたし達が、負けるコトも期待しているのさ」
「ど、どうして?」
そう言われて、観客たちの興奮のボルテージが、異常に上がっているコトに気付いた。
「闘技場で負けた女は、勝者となった者に下賜(かし)される。つまりは、そう言うコトだ!」
女将軍の攻撃が、鋭さを増す。
「女の子を、商品にしてるってコトですか!」
「これまで、わたしの姉妹たちの何人もが戦いに敗れ、勝者となった男の慰み者にされて来たのだ。わたしが敗れれば、次の姉妹の誰かがミノ・アステを名乗って、この闘技場に立つコトだろう」
「そ、そんなコトって!」
「人間にしては、合理的なやり方じゃの」
「ル、ルーシェリア?」
「この国ではの。力こそ正義……つまりは、男の権力が圧倒的に強いのじゃ」
「フッ、その通りだ。女が自分の人生を自由に決めたければ、男が相手でも力を示し続けるしかない」
「な、なんでそんなコトに!」
舞人も、憤(いきどお)りを感じ始めた。
「軍事国家に、ありがちなコトじゃ。傭兵や荒くれ者の兵隊たちや、ソイツらに抑圧された平民たち。どこかではけ口を作ってやらねば、暴動や謀反に繋がるでの。それに強い男と女が結ばれれば、強者の血を残すコトが出来るのじゃよ」
「解っただろう。わたしが敗れれば、12人の側近たちもお前らの所有物となってしまう。だからわたしは、負けるワケには行かんのだァ!」
ミノ・アステ将軍は、最後の攻撃を繰り出した。
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