ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第30話

完璧なるステージ

「わたし……ミカドとサトミ、レインのユニット名は、プリンセス・オブ・ダークネス」
 ミカドが、悪戯(いたずら)なウィンクを投げながら、観客たちを扇動する。

「今度の曲は、サイキック・メイルストローム。ヨロシクゥ!」
 ガラスの塔から光が4方8方に広がり、ドームの天井や客席に、光の渦を映し出した。
ステージからレーザー光線が飛び、サイキックの名に相応しい空間を作り出す。

「ス、スゴイな。もう観客席と、1体になっている」
 ボクや久慈樹社長は、再び舞台袖に下がり、再びステージを後ろから見ていた。

 プログレッシブ・ロックの優雅で荘厳なメロディに、ミカドの力強い支配的な歌声が乗る。
サトミとレインも、個性的な声で重奏したりエコーソングのようにミカドのボーカルを追っかけたりと、長い楽曲の中で曲調がさまざまに変化して行った。

「アレだけの自信も、当然と言うべきか。素人ながら、かなり難しい曲なのは理解できる。それを、完璧に歌い切ってしまうとは……」
 正直、ボクの生徒たちのアイドル曲とは、レベルが違う。

 12枚の黒い羽を広げて、飛翔するミカド。
バックには、アメジスト色に輝くガラスの塔があった。

「地上に舞い降りた、天使長……ルシファーか」
「キレイだよなァ、ミカド」
「威厳もあるし、アイドルとしてのオーラが別格だぜ」

 サトミはステージから走り出し、観客席に向かってダイブした。
魚型の黒いレインコートと、海ヘビのようなシッポを持ったサトミ。
観客席の上を、クネクネと低空飛行で駆け回る。

「うわッ、今オレの上通った!」
「パンツ見えてたよな。でも遠目に見ると、ヘビみたい這ってるぞ」
「リヴァイアサンってコトだろ。可愛いリヴァイアサンだがな」

 ステージに1人残されたレインは、変わった形の椅子に座って本を読んでいる。
彼女のパートの歌詞は、誰かになにかを問いかける、疑問形になっていた。

「レインってコ、1人だけ地味だよな」
「あの清楚な感じ、オレは好きだぜ」
「表情が無いのが、逆にミステリアスで良いんだ」

 まるで、本物のプログレッシブ・ロックバンドのように、美しく完成された曲が終焉を迎えると、観客席から万雷の拍手が湧き上がる。
7分を超える曲であったにも関わらず、誰1人として飽きさせない歌唱力と演出を、彼女たちは魅せた。

「ヤレヤレ。これでは草葉の陰で、アイツも喜んでしまっているじゃないか」
 苦笑いを見せる、久慈樹社長。

 アイツとは、ミカドたち3人が所属していたアイドルプロデュース会社の、若き経営者のコトだろう。
彼は、ユークリッドにTOB(株式公開買付)を仕掛けられ、会社を乗っ取られて落胆し、自ら命を絶っていた。

「どうも、アリガトー」
「みんな、楽しんでくれたかな?」
「わたし達、プリンセス・オブ・ダークネスのステージは、これで終わりです」

「ええ、なんでだよ!」
「たった2曲じゃねェか。もっと、聞きたいぜ」
「テストなんか止めちまって、ステージ続けてくれよな」

 ドーム全体に、ステージの終わりを惜しむ声が広がる。

「ゴメンなさいね。ステージで完璧に披露できるのは、今は2曲だけなの」
「あ。でも今の2曲は、直ぐにシングルカットされるから、みんな買ってね」
「心配しなくとも、みなさんすでに買ってくれてますよ」

 ユークリッターを見ると、売上チャートも爆発的に伸びていた。

「まったく、アナタのプロデュース能力には、恐れ入りますよ」
「フフ。ウチには、優秀なスタッフが揃っているのだよ。とくに元アイツの会社のスタッフなどは、ミカドたちのステージを成功させようと、労基ガン無視で働いていたからね」

「経営者がそれを言ってしまって、大丈夫ですか?」
「知らないのかい。この国の労働基準監督署は、怠けモノなんだ」

 久慈樹社長は、いつものように嘯(うそぶ)いた。

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