アイドルのプライド
アスタロートのミク、ベリアルのフウカ、バアルのミライ。
アニメやゲームなどでも採用される高名な悪魔をモチーフにした3人が、妖艶に歌い踊る。
「雰囲気はダークな曲だケド、これはこれで好きかも」
「アップテンポでキーボードメインだし、ダンスミュージックなのか?」
「オッサンにとっては、懐かしい感じだぞ。バブルの頃に、流行ってた曲に近い」
観客たちは、何やら曲の評価を下していたが、大音量がジャマをして聞こえなかった。
ピンク色に染めた長髪を振り乱し、艶やかな白い大蛇を身体に巻き付かせながら踊る、ミク。
ライトパープルのクセ毛を掻き上げ、赤いドラゴンの翼を広げ情熱的に歌う、フウカ。
カエルと猫の頭に挟まれた真っ白な長い髪を揺らし、リズミカルに舞うミライ。
ガラスの塔がミラーボールのように輝きを放ち、ドームの中をレーザー光線が飛び交う。
ボクはもちろん経験していなのだが、バブルの頃のディスコのお立ち台とやらにも似た、ゴージャスで煌びやかなステージだった。
「ユークリッドのゲリラライブと聞いてスッ飛んできたのに、別のアイドルでがっかりしたケド」
「こりゃあ、天空のアイドルたちにも負けず劣らずの、アイドル集団だぜ」
「オレ、ミク推しに乗り換えよっかな」
観客の声も、おおむね好感をもって受け入れられているようで、久慈樹社長も満足げにステージを眺めていた。
「今日は、ユークリッドのゲリラライブに集まってくれて、ありがとう!」
「キミたちのお目当てが、ボクたちじゃ無いコトはわかってる。でも、安心してくれ」
「絶対に、みんなを満足させてあげちゃうんだから!」
ボクの生徒たちが入っているガラスの塔が、真っ白に輝く。
金色の光のシャワーがドームの天井から降り注ぎ、3人の冥府のアイドルは再び歌い始めた。
「お、今度はアイドル曲寄りの曲だな」
「ハイテンションな感じだし、振り付けも自身に満ちた感じね」
「キャッチーでサビもアレンジ利いてるし、これはヒット確実だぜ」
実際に、彼女たちの歌う楽曲は、すぐさまユークリッドのダウンロード曲上位に躍り出る。
「それにしても、ミクたちはいつの間に、こんな曲を歌えるようになっていたんだ」
ボクが、キア率いるチョッキン・ナーのライブに誘われたとき、彼女たちはライブを見る側だった。
それが短期間で、ドームを埋め尽くす観客たちを熱狂させているのだから、驚きが隠せない。
「どうやら、驚いているようだね。知り合いの女の子たちが、ライブステージに立っているおが不思議かい?」
曲が終わり静かになった会場で、久慈樹社長が話しかけて来た。
「ええ。ボクが知る彼女たちは、平凡な普通の女の子たちでしたから」
「フフ。教師と言う職業は、つくづく生徒を観る眼が無いのだね」
「そ、それは……」
「お疲れ、ミク、フウカ、ミライ。中々のステージだったよ」
ボクの反論を待たずに、ステージ中央に歩いて行く久慈樹 瑞葉。
「ありがとうございます、久慈樹社長」
「だけどボクたちは、まだまだ上を目指すよ」
「そうそう。今は、わたし達がアイドルなんだから!」
「頼もしい限りだ。ミカド、キミたちも負けてられないんじゃないか?」
社長は、捨次脇に控えていた、ミカドたち3人に視線を送る。
「もちろん、ポッと出のアイドルになど、負けるつもりなんてありませんわ」
「ボクたちは、歌もダンスも、たくさんレッスンを重ねてきたんだからね」
「アイドルは、実力勝負と言うのは理解してますが、わたし達の方が上でしょう」
ルシファーのミカド、リヴァイアサンのサトミ、ベルフェゴールのレインが反論した。
「そうか。どうやら塔の中が少し手間取っているうだし、もうワンステージ頼めるか?」
「ええ、実力の違いを見せて差し上げますわ」
気高きミカドは、ミクたちに微笑を向けると、再びステージに立った。
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