纏まるチーム
「壬帝オーナーよ。最後に少しだけアンタを、好きになれたぜ。じゃあな」
すでに解雇通告を言い渡されていたイヴァンさんは、蒼い背番号9のビブスを脱ぐと、オーナーが座っているベンチの開いている座面に放り投げた。
「そうだったな、イヴァン。ウチには、オフサイドラインも気にせず、前線でオフサイドにかかりまくるフォワードなど、必要ない」
「悪かったな。それに付いちゃあ、オレも改めなきゃならん部分だろうぜ」
背中を向けたまま、ピッチを後にするイヴァンさん。
「ところで、今のお前は自由契約(フリー)なのだろう?」
「そりゃアンタに、クビにされたばかりだからなあ」
「ウチには、今のとことビルドアッパーが足りない。中盤から、ボールを持ち上がれる類(たぐい)の選手がな」
「オレに、フォワード以外のポジションをやれって言うのか?」
「たった今、試合でやって見せただろう?」
背中を向けたまま立ち止まったイヴァンさんと、目を閉じたままの壬帝オーナー。
2人の間に、緊張が走る。
「中盤として、再契約するってコトか?」
「もう少し柔軟に考えれば、縦関係のツートップと言ったところだ。ワントップのポストプレーヤーの左右のスペースを、お前が使え」
「フッ、仕方ねえな。その条件、呑んでやるよ」
クビになった野性味溢れるストライカーは、中盤のビルドアッパーとして再契約を勝ち取った。
「この紅白戦、大いに収穫があった。ワントップのストライカーは、お前に任せるぞ」
「おう。任せてくれや、壬帝オーナー!」
オーナーの視線の先に居た、ヴァロンさんが豪快に頷く。
その背後で、名前を呼ばれなかったランスさんが、タオルを頭にかけたまま項垂(うなだ)れていた。
「ヴィラール、ヴァンドーム、フィツ・べリックと並ぶバックラインも、左サイドが課題ではあったが、今日の試合で答えが見えた。リナル、お前を中心に行く」
「は、はい。壬帝オーナー」
補欠組だったリナルさんも、レギュラー組に抜擢された。
「中盤のアタッカーは、ロランとオリビが中心なのは変わらないが、ルネ、ワルター、ラフェル、お前たちの中からコンディションの良いヤツを使って行く。新たに契約した監督とも、話し合った上ではあるから、過度の期待は禁物だがな」
紅白戦で、結果を残したプレーヤーの名前が、次々に上げられる。
その中に、ランスさんの名前は無かった。
「ロラン、コイツはキミに返すよ」
アルマさんが、腕に巻いていたキャプテンマークを、オーナーの前でロランさんの右腕に巻く。
「まったく、勝手にチームを抜け出すセルフィッシュなお前が、キャプテンとはな」
ため息を吐きつつも、壬帝オーナーはロランさんがチームキャプテンに復帰するのを認める。
「迷惑をかけてスミマセン、壬帝オーナー。ですが、落とし前は……」
「落とし前は、1年でエトワールアンフィニーを上のリーグに押し上げるコトだ。それ以外は、認めんぞ」
「は、はい!」
ロランさんは、固く決心した瞳をしていた。
海の水平線に近づく太陽に、汗まみれの選手たちの顔が照らされる。
「御剣 一馬と言ったかな。キミには、大変迷惑をかけてしまった」
プライドの塊のような壬帝 輝流(みかど シャル)が、ボクに向かって頭を下げる。
ロランさんやオリビさんまで、頭を下げていた。
ほわあぁぁッ、な、なんでェ!?
パニクッたボクは、さらに深々と頭を下げる。
「フフ、キミは面白いヤツだな。だが、優秀なサッカー選手だ。あの倉崎 世叛が、目をかけただけのコトはある」
オーナーの賛辞の言葉に、ボクは思いっきり頭を横に振った。
「キミは少なからず、ウチのユニホームを着てピッチに立った。その分の報酬は、払わせてもらうよ」
厳しい人だと思った壬帝オーナーは、気さくにほほ笑んだ。
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