ラノベブログDA王

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王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第8章・EP036

我がまま(セルフィッシュ)

 エトワールアンフィニーSHIZUOKAを、2分割して行なわれた紅白戦。
青いビブスを着たボクやロランさんのチームは、最初は優勢にゲームを進めた。

「クソッ、1点だけかよ!」
 苛立ちを給水ボトルにぶつける、イヴァンさん。
最初の得点は、この野性的なストライカーだった。

「相手の守備陣を考えれば、仕方ないですよ」
 2点目を決めたオリビさんが、タオルで汗を拭いながら言葉を返す。

「前半は、イイ感じだったのによ。後半は、その守備陣にやられちまったんだぜ」
 3点目を決めたワルターさんが、オリビさんの肩に腕をかけながら言った。

 ヴァンドームさん、ヴィラールさん、べリックさん。
守備だけで無く攻撃も強力な3人のディフェンダーの得点で、同点に追いつかれたんだ。

「ヴァンドームとヴィラールは、リベロとしても鳴らしていたが、まさかべリックがあそこでシュートを狙って来るとは……」
 反省の弁を垂れる、リナルさん。

 でも、ホントに反省しなきゃいけないのは、ボクだ。
フォワードに入って置きながら、1点も取れなかった挙げ句、ボールを奪われてヴァロンさんに決められちゃったんだから。

「延長に入って、相手がユース上がりの3人を投入して来た。アレで、流れを持って行かれたな」
「ああ、オリビ。正直、彼らがあそこまでやれるとは思わなかったよ」
「こりゃ、レギュラー争いも大変になるぜ」

 選手層の厚さを嘆く、オリビさん、リナルさん、ワルターさん。
だけどホントに嘆かわしいのは、そんなチームと同じリーグに所属する、ボクたちデッドエンド・ボーイズなんですケド!

「ま、そんなピンチを1人でなんとかしちまったのが、ウチのエースなんだがな」
 イヴァンさんが、フリーキックを譲った背番号10を見た。

「延長だけで、ハットトリックとはな」
「去年はウチも、痛い目にあったぜ」
 去年は対戦相手だったリナルさんと、ワルターさんも舌をまく存在。

 サッカーにおける背番号10は、特別な存在なんだ。
イヤ、奇跡を起こさなければいけない、背番号なのかも知れない。
ロランさんは、見事にそれをやって退けたんだ。

 ボクもロランさんを見ると、青いビブスの背番号10を脱ぎながら、壬帝オーナーと話していた。

「オレは……勝つコトはできませんでした」
 項垂(うなだ)れる、ボクとそっくりな顔のエース。

「そうだな。だが、我々も勝つコトはできなかった」
 壬帝オーナーの顔からは、厳しさが抜けていた。

「お前は、我がままな選手だよ。オレが現役時代を含めて出会って来た選手の中でも、日本人ならトップクラスのセルフィッシュなプレーヤーだ」

「すみません……」
「謝らまくて良いさ。オレも現役時代は、セルフィッシュと呼ばれていた。ま、今も変わらんがな」
 微笑する、かつてのカリスマプレーヤー。

「勝ちにこだわるのも、悪いコトではない。自分のサッカーを貫きたいと言う気持ちも、解らんでもない」
「壬帝オーナー……」

「だがオレにも、サッカーに対する信念がある。オレはヨーロッパを周って、いろんなクラブを渡り歩いて、様々な指導者の元でサッカーをプレイして来た。サッカーは常に、進化している。自由な発想だけでは、勝てなくなって来ている」

「はい。オレも、それは理解しています。でも……」
「サッカーに想像性は、必要だと?」
「は、はい」

 ロランさんの返事に、壬帝オーナーは苦笑いをする。

「お前の今日のプレーを見て、オレも少しばかりそう思えて来たよ。ヨーロッパでは、まず戦術を決めた上で、ポジションに選手を当てはめる傾向がある。天才肌の選手でも、チーム戦術に合わなくて外される場合もあってな。若い頃のオレが、そうだったよ」

 世界を見て、肌で世界に触れて来た壬帝オーナー。

「だが、お前ならもしかすると、ヨーロッパでも通用するのかもな」
「オレが……ヨーロッパで?」

「浮かれるなよ。今すぐ、通用するなどとは言っていない。勝手にチームを抜け出し、ロクにトレーニングもしていなかったのだろう?」

「はい……」
 今度は、本当に反省している顔のロランさん。

「このチームのエースは、ロラン……お前だ」
「え?」

「わたしは、ヨーロッパで科学的な体力トレーニング方や、戦術論を学んで来た。チームをトップリーグに上げると共に、お前たち才能溢れる選手を、世界に通用するレベルにまで鍛えるつもりだ」

「壬帝オーナー!」
 ロランさんは、満面の笑みを取り戻した。

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