我がまま(セルフィッシュ)
エトワールアンフィニーSHIZUOKAを、2分割して行なわれた紅白戦。
青いビブスを着たボクやロランさんのチームは、最初は優勢にゲームを進めた。
「クソッ、1点だけかよ!」
苛立ちを給水ボトルにぶつける、イヴァンさん。
最初の得点は、この野性的なストライカーだった。
「相手の守備陣を考えれば、仕方ないですよ」
2点目を決めたオリビさんが、タオルで汗を拭いながら言葉を返す。
「前半は、イイ感じだったのによ。後半は、その守備陣にやられちまったんだぜ」
3点目を決めたワルターさんが、オリビさんの肩に腕をかけながら言った。
ヴァンドームさん、ヴィラールさん、べリックさん。
守備だけで無く攻撃も強力な3人のディフェンダーの得点で、同点に追いつかれたんだ。
「ヴァンドームとヴィラールは、リベロとしても鳴らしていたが、まさかべリックがあそこでシュートを狙って来るとは……」
反省の弁を垂れる、リナルさん。
でも、ホントに反省しなきゃいけないのは、ボクだ。
フォワードに入って置きながら、1点も取れなかった挙げ句、ボールを奪われてヴァロンさんに決められちゃったんだから。
「延長に入って、相手がユース上がりの3人を投入して来た。アレで、流れを持って行かれたな」
「ああ、オリビ。正直、彼らがあそこまでやれるとは思わなかったよ」
「こりゃ、レギュラー争いも大変になるぜ」
選手層の厚さを嘆く、オリビさん、リナルさん、ワルターさん。
だけどホントに嘆かわしいのは、そんなチームと同じリーグに所属する、ボクたちデッドエンド・ボーイズなんですケド!
「ま、そんなピンチを1人でなんとかしちまったのが、ウチのエースなんだがな」
イヴァンさんが、フリーキックを譲った背番号10を見た。
「延長だけで、ハットトリックとはな」
「去年はウチも、痛い目にあったぜ」
去年は対戦相手だったリナルさんと、ワルターさんも舌をまく存在。
サッカーにおける背番号10は、特別な存在なんだ。
イヤ、奇跡を起こさなければいけない、背番号なのかも知れない。
ロランさんは、見事にそれをやって退けたんだ。
ボクもロランさんを見ると、青いビブスの背番号10を脱ぎながら、壬帝オーナーと話していた。
「オレは……勝つコトはできませんでした」
項垂(うなだ)れる、ボクとそっくりな顔のエース。
「そうだな。だが、我々も勝つコトはできなかった」
壬帝オーナーの顔からは、厳しさが抜けていた。
「お前は、我がままな選手だよ。オレが現役時代を含めて出会って来た選手の中でも、日本人ならトップクラスのセルフィッシュなプレーヤーだ」
「すみません……」
「謝らまくて良いさ。オレも現役時代は、セルフィッシュと呼ばれていた。ま、今も変わらんがな」
微笑する、かつてのカリスマプレーヤー。
「勝ちにこだわるのも、悪いコトではない。自分のサッカーを貫きたいと言う気持ちも、解らんでもない」
「壬帝オーナー……」
「だがオレにも、サッカーに対する信念がある。オレはヨーロッパを周って、いろんなクラブを渡り歩いて、様々な指導者の元でサッカーをプレイして来た。サッカーは常に、進化している。自由な発想だけでは、勝てなくなって来ている」
「はい。オレも、それは理解しています。でも……」
「サッカーに想像性は、必要だと?」
「は、はい」
ロランさんの返事に、壬帝オーナーは苦笑いをする。
「お前の今日のプレーを見て、オレも少しばかりそう思えて来たよ。ヨーロッパでは、まず戦術を決めた上で、ポジションに選手を当てはめる傾向がある。天才肌の選手でも、チーム戦術に合わなくて外される場合もあってな。若い頃のオレが、そうだったよ」
世界を見て、肌で世界に触れて来た壬帝オーナー。
「だが、お前ならもしかすると、ヨーロッパでも通用するのかもな」
「オレが……ヨーロッパで?」
「浮かれるなよ。今すぐ、通用するなどとは言っていない。勝手にチームを抜け出し、ロクにトレーニングもしていなかったのだろう?」
「はい……」
今度は、本当に反省している顔のロランさん。
「このチームのエースは、ロラン……お前だ」
「え?」
「わたしは、ヨーロッパで科学的な体力トレーニング方や、戦術論を学んで来た。チームをトップリーグに上げると共に、お前たち才能溢れる選手を、世界に通用するレベルにまで鍛えるつもりだ」
「壬帝オーナー!」
ロランさんは、満面の笑みを取り戻した。
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