ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第08章・33話

エリス

「察するに、バルザック大佐。時の魔女の本拠地とは、太陽系外縁天体のどれかですか?」
 メルクリウスさんが、冥界降りの英雄に問いかける。

「ご明察だな、その通りだ。我々が付き止めた時の魔女の本拠地と思われる準惑星は、エリスだよ」

「エリスですって!?」
 英雄が提示した天体の名前に、ボクは衝撃を受けた。

「どうしたと言うのだ、宇宙斗艦長。エリスに、何か思うところがあるのかね?」
 冥界降りの英雄が、詰問する。

「……エリスですか。そうですね」
 ボクが答えなかったので、替わりにメルクリウスさんが考察を始めた。

「エリスとは、ギリシャ神話においては、不和と争いの女神でしたよね?」
「ああ、そうだ。エリスは戦争の神であるアレスの妹、もしくは妻とされるコトもあるな」
「神話とは、矛盾に満ちているモノです」

「確かに、キミの言う通りだな」
 冥界降りの英雄は、コーヒーカップを口に運びながらうなずく。

「エリスは、ギリシャ神話に置いても、比較的マイナーな女神だな。だが、彼女のエピソードは有名だ」
「エリスの黄金のリンゴ……ですか」

 エリスの有名なエピソードは、1000年の昔にボクが、時澤 黒乃に抱いたイメージの源泉となるモノだった。

「エリスは、ある神々の結婚式に招かれなかった腹いせに、黄金のリンゴを神々に送った」
「ええ。最も美しい女神へと、添えてね。まったく、罪深き話しですよ」

 バルザック・アインの言う神々とは、一般にペーレウスとテティスであり、2人が結ばれた結果、後に英雄アキレウスが生まれるコトとなる。

「黄金のリンゴを送られた神々のうち、アテナ、アフロディーテ、ヘラの3柱の女神が、互いに自分が受け取るべきだと主張したのだったね」

「気高き女神は、美に対しては妥協できないのでしょう」
「他にも、異なる文化圏同士の争いと言う側面も、あるだろう」
 バルザック・アインは言った。

「確かアフロディーテは、東方由来の女神でしたね」
「元は、メソポタミアのイナンナ、イシュタルをルーツに持つ女神だ。冥界降りなどと呼ばれる荒行も、彼女たちがルーツだ」

「アテナもやはり、イシュタルやイナンナを起源に持ったアナトの、ギリシャでの呼び名ですよ」
「そうだな、宇宙斗艦長。大地の邪眼と呼ばれたアナト。バアルも、彼女を妻に得たコトで、権威を高めた。パレスチナで、熱狂的な信仰を得ていた大地母神だな」

 大地の邪眼と呼ばれた女神の呪殺能力は、ギリシャでアテナと呼ばれるようになると、メドゥーサの盾としての能力に置き換わる。

「ヘラは、ギリシャ本来の女神でしたね。ゼウスなど北方由来の父系民族の神が、入ってくる前に信仰されていた大地母神でした」
「どうだろうか。ヘラクレスが、ヘラの息子だとする神話も存在するな」

 ヘラクレスとは、ヘラの栄光と言う意味であり、エトルリア神話に置いては、ヘラに相当するユニとは親子関係にある。
同神話でのヘラクレスは、アテナに相当するメンルファを妻にしていた。

「ヘラはエジプトでは、へケットと呼ばれるカエルの女神であり、多産を象徴する女神でした」
「フェニキア人たちが、地中海にばらまいたのだろう」

 オリエントにルーツを持つ3美神は、互いに自分の美貌を主張し、その審判に当たったパリスをあの手この手で買収する。
やがて争いは、ギリシャとトロイ(現トルコ)の全面戦争(トロイア戦争)にまで発展して行った。

「もう1つ、エリスには不和と呼ばれるに相応しい、エピソードがありますよ」
 ボクは2人に、問いかける。

「フッ、もちろん知っているよ」
 英雄は、そう答えた。

「エリスを始めとした太陽系外縁天体は、冥王星の呼び名である冥府の王・プルートと同じく、冥界の神や魔物の名前を与える決まりとなった。わたしが、冥界降りの英雄と呼ばれる所以でもあるが……それは宇宙斗艦長、キミの時代の話だったね」

「ええ、それまで惑星とされていた冥王星。ですがエリスの発見によって、惑星の座を追われた……」

「冥王星は、準惑星へと降格してしまったのでしたね」
 メルクリウスさんが、コーヒーを飲みながらつぶやく。

「はい。エリスとは、不和の女神に相応しい名ですよ」
 ボクは改めて、未来にこれなかった黒髪のクワトロテールの少女を、思い浮かべていた。

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