熱狂の闘技場
「こん棒を持った1つ目巨人に、ミノタウロスかえ。ハテ、どこかで見覚えがある気がするのじゃ」
首を傾げる、漆黒の髪の少女。
「ルーシェリアの城の、警備をしてたヤツらだろ。白々しい」
舞人が、かつて攻略した魔王の城の主は、ルーシェリアだった。
「妾がやってやっても良いが、ご主人サマよ。そろそろガラクタ剣を、目覚めさせねばならぬじゃろ?」
「わかってるよ。サタナトスとの戦い以来、沈黙したままのこの剣……ジェネティキャリパー」
舞人は、ガラクタ剣を具現化させる。
「ほう、武器は自分で用意していたか」
「これでも本国では、武器屋だったんですよ、ミノ・アステさん」
黄金の女将軍に、色々なパーツがゴテゴテくっついた剣を見せる、舞人。
「それにしても、おかしな剣だな。剣と呼んでいいかすら、疑問だ」
「ニャ・ヤーゴでも、同じ評価でした」
「フッ、おもしろい少年だ。名は、何と言う?」
「因幡 舞人です」
そう告げると、舞人は巨人の群れへと向かって行った。
「オイオイ、アイツ1人で大丈夫なのかよ?」
「オ、オレたちも、加勢するしかねェだろ」
「し、仕方ねェ」
ティンギス、レプティス、タプソスの3人の船長も、槍を身構え1匹のミノタウロスに向かって行く。
「さて、どうやってお前を目覚めさせるか……パテラが見せてくれた記憶だと、お前の動力源は太陽の光みたいだケド」
重機構天使の見せた記憶の中で、科学者たちは太陽の力を剣に貯えていた。
クノ・スス島の高台にある闘技場には、真上に燦燦(さんさん)と太陽が輝いている。
巨人たちは容赦なく舞人たちを戦斧やこん棒で攻撃し、その度に大勢の観客が熱狂し歓声を上げていた。
「因幡 舞人と言う少年、たしかに大した身のこなしだが、加勢しなくて良いのか?」
ミノ・アステ将軍が、漆黒の髪の少女に問いかける。
「サイクロプスと、ミノタウロスと言っても、あの程度ではの。妾の配下だったヤツらの方が、10倍は強いぞえ」
「お前は一体、なに者なのだ?」
「妾か。ただのしがない、魔王じゃよ」
嘯(うそぶ)く、ルーシェリア。
「多少は、温まって来たかな?」
ジェネティキャリパーの感触を確かめる、舞人。
彼の背後には、片膝を付いたサイクロプスが居た。
「僅かだケド、相手の魔力を奪っている感触がある。ここに居るヤツらをやっつければ、完全に目覚めてくれるだろうか?」
ジェネティキャリパーの身体能力強化を、さらに引き出す舞人。
最初は、敵を僅かに傷付ける程度だったが、徐々に巨人たちを倒して行った。
「あ、あのボウズ、スゲエじゃねェか!?」
「ンなコト言ってる場合か。オレたちゃ、1匹のミノタウロスにすら苦戦してんだぜ」
「せめてコイツくらは、倒してやんねェとな」
逃げ回っていた3人の船長たちも、舞人の活躍にやる気を出す。
ティンギスが戦斧を槍で受け流して、レプティスとタプソスが両腕を斬り落とした。
「オラ、止(とど)めだぜ!」
ティンギスが、牛頭の巨人の心臓を貫く。
「すげェな、アイツら。ミノタウロスを、倒したぜ」
「蒼い髪のヤツに比べりゃ弱いが、大したモンだ」
激しい命のやり取りに、興奮の度合いを高める観客たち。
「……」
観衆の中に紛れて、マントの男が身を潜めながら様子を観察していた。
「剣に、力が戻って来てる。だけど、まだまだだ」
ジェネティキャリパーの感触に、不満を感じる舞人。
闘技場には、半数以上の巨人がひれ伏していた。
「フッ、大した強さだ。あの少年、巨人たちを生かしたまま倒しているな」
「魔族と言えど、殺したくはないのじゃろう。ご主人サマらしい、甘ちゃんじゃ」
30分ホドの時が過ぎ、最後の1匹のサイクロプスが残るだけとなった、闘技場。
殆どは舞人が倒したが、船長たちも3匹ホドを葬っていた。
「ダメだ。コイツらじゃ、大した回復にならない」
ジェネティキャリパーは、まだ目覚めるにはホド遠いと感じる、舞人。
『グガアアァァーーーーッ!!』
瀕死のサイクロプスが、最期の力を振り絞って舞人に向かって行く。
「もう良い、お前たちでは相手にならぬわ」
けれどもサイクロプスは、舞人に近づく前にバラバラになって四散した。
「約束通り、わたし自ら相手になってやろう」
ミノ・アステ将軍が、黄金の鞭を撃ち鳴らす。
その足元には、一つ目巨人の残骸が散らばっていた。
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