エターナル・リゼントメント(永遠の恨み)
「ユークリッドに恨みを持つキミが、どうしてユークリッドのアイドルになったんだ?」
ボクは、ミカドに疑問をぶつけた。
「わたし達の所属会社は、ユークリッドに吸収された。会社としては消えちゃったケド、当時のスタッフの何人かが、ユークリッドのアイドル部門で働いていたりもするのよ」
「そうか……」
どうやら本心は、別にある様だ。
「それにまたみんなと、アイドルを目指せると思ってね」
「みんな?」
「ええ、そうよ。リヴァイアサンと、ベルフェゴール」
ルシファーをモチーフとする姉小路 魅角(あねがこうじ ミカド)の左右に現れる、2人の少女たち。
「キミたちも、彼女と同じ会社に所属していたのか?」
「ウン、そうだよ。ボクは、リヴァイアサンをモチーフにした、飯野 里味(めしの サトミ)」
その中の1人が、名乗りを上げた。
彼女は、青黒いレインコートのような衣装を着ていて、フードの部分は魚のカタチになっている。
魚のヒレみたいな翼を生やし、青いスカートからはウミヘビのような長いシッポが伸びていた。
「アイドル辞めて、実家で働いてたんだ。そんときに、ミカドちゃんから連絡あってさ。あ、実家は定食屋さんでね。味里って名前で、お魚定食が美味しいんだ。ボクのおすすめは……」
どうやら、話がどんどん横道に逸れて行くタイプのようだ。
「わたしは、ベルフェゴールがモチーフの、秋庭 恋韻(あきば レイン)」
清楚な雰囲気の少女が、抑揚のない話し方でサトミの話を遮(さえぎ)る。
物静かな彼女は、胸から背中に張り出すカタチの、黒いアーマーを装備していた。
短い茶色のティアードスカートに、黒バラの飾られたウェディングベールを付けている。
「わたしも、アイドル活動が断念されてからと言うもの、図書館で本を読みながらWAB製作の仕事をしていたわ。ユークリッドのアイドルになるのは、最初は反対でした。ですが、ミカドの熱意に押され、再開するコトにしたのです」
「7人のアイドルに選ばれたのは3人だけだケド、まだ何人かかつての仲間が居るのよ」
ミカドはボクに、そう告げた。
「これで、7人のアイドルのうち6人が、出揃ったと言うコトですか」
「キミの知り合いであるフウカ、ミク、ミライに、ボクを恨むミカド、サトミ、レイン。そうだね」
ボクが暗に促(うなが)しても、社長は最後の1人を紹介しない。
最後の1人であろう少女も、すでにステージに上がっていて、ハエのような羽根に大きなドクロの描かれた、異形のコスチュームを着ていた。
「さて、話は長くなったが、そろそろステージを開幕させようじゃないか」
「ボクにとっては、生徒たちがテストを受ける場なんですが」
「オッと、そうだった。失敬」
カラカラと笑う、久慈樹社長。
「まずは景気付けに、ミカドたち3人の曲を披露するとしよう。その次に、フウカたち3人が歌う。テストは、それからだ」
ライブ初期のプログラム紹介が終わると、会場全体の照明が落とされて暗くなる。
いつの間にか全天候型ドームの屋根も閉じ、天空にはユミアたち12の星座の少女が乗る空中ステージだけが、明るく輝いていた。
「わたしは、ミカド。経緯はともかく、今はユークリッドの冥府のアイドルよ」
ミカドがボイパを始めると、真っ暗な会場に彼女のイメージカラーである紫色のペンライトが揺れる。
「ボクたちは、3人のユニットなんだ」
「ユニット名は、エターナル・リゼントメント(永遠の恨み)」
サトミとレインも続き、観客たちのボルテージも上って行った。
「曲は、カーズ・ド・ダークネス」
ミカドの12枚の黒い翼が、大きく展開される。
同時に、光を失っていたガラスのタワーが輝きを取り戻し、ミカドたち3人の少女の顔を映し出した。
曲が始まると、青と茶色のペンライトも加わり、アイドルのファンたちはステージに熱狂する。
「グランジ、ドゥームメタルとか呼ばれるタイプの曲だよ」
久慈樹社長が、説明をくれる。
ボクたちは、ステージ脇から彼女たちの後ろ姿を見ていた。
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