黄金の女将軍
兵士たちは、舞人とルーシェリアたちを闘技場へと連行するため、街の大通りを練り歩いていた。
舞人の主張が認められたのは、1つはラビ・リンス帝国が、強者の言葉が優先される社会構造にある為であり、もう1つは彼らの上司の許可を得たからである。
「オイオイオイオイ、なんだって闘技場に直行なんだよ」
「この国にだって、裁判くれェあるだろうによォ」
「チキショウ、モンスターになぶり殺しにされちまう」
わめき散らすティンギス、レプティス、タプソスの船長の前には、蒼い髪の少年と漆黒の髪の少女が平然と歩いていた。
見物に集まった野次馬たちは、彼らを追いかけながら闘技場へと向かっている。
「凄い数の人たちだな。ニャ・ヤーゴやヤホーネスとは、まったく価値観が違う。ボクたちを追い越して、闘技場に走って行く人たちまで居るよ」
因幡 舞人が言った。
彼の手には手枷(てかせ)がはめられており、手枷にくくり付けられたロープは、兵士たちの手にしっかりと握られている。
「人間などとは、そう言った生き物じゃろう。正義を語る輩(やから)も、平穏に振る舞う輩も、人の不幸を喜ぶモノよ」
「そんな人ばかりでも、無いと思うケド……」
ルーシェリアの達観した反応に、異を唱える舞人。
「大半がそんな人たちだと、妾は思うがの。古来より死刑場は、民衆のかっこうの娯楽の場でもあったのじゃ」
「死刑が、娯楽だなんて……」
「抑圧された民衆にとってみれば、スリルを味わえる場所なのじゃよ。この島のように、武力で支配されていればなお更じゃ」
「オイ、なにを話している。さっさと、歩かんか!」
手枷に繋がる縄を引っ張る、兵士。
「うるさいのォ。また、地面にめり込みたいのかえ?」
ルーシェリアの真紅の目を見た兵士は、なに事も無かったかのように前を向いた。
兵士に先導された一行は、石造りの巨大な闘技場に入場する。
逮捕劇は前触れも無く行なわれたが、すでに多くの観衆が入場を済ませていた。
「この人たちみんな、ボクたちが殺されるのを見に来ているのか。ルーシェリアの言っているコトも、まんざらウソじゃないみたいだ」
「当たり前じゃよ、ご主人サマ。妾は人間のエゴを、イヤと言うほど見て来たからの」
「お、お前ら、よく平気で居られんなァ!」
「もうすぐオレたちは、モンスターに八つ裂きにされちまうんだぜ?」
「オレたちゃ、武器すら持ってねェんだからよ」
3人の船長は丸腰で、ましてや鎧や盾などはもちろん装備していない。
「武器くらいなら、与えてやっても良いぞ」
すると、舞人たちの後ろから声が聞こえた。
「ほう、この闘技場の執行官か。ずいぶんと、寛大じゃのォ」
ルーシェリアは、声の主の容姿を観察する。
「わたしの名は、ミノ・アステ。この闘技場の支配者にして、死刑執行の責任者でもある」
名乗ったのは、露出度の多い黄金の鎧を身に纏(まと)った、麗しい女性だった。
縦長の黄金の兜には、左側にだけ巨大な角があって、右のモノは途中で折れている。
兜からは、雲のような真っ白な長い髪がフワリと伸び、肌は褐色だった。
豊かに実った胸とくびれた腰、大きな尻を見せつけるかのように、防備する部位の少ない黄金の鎧。
「ご主人サマよ、妾の見解は間違っていたかも知れぬぞ。どうやら集まった観客どもの目当ては、この女執行官のようじゃ」
ルーシュエリアの言う通り、観客席はほぼ男性で埋め尽くされていた。
「お前たちが、自ら闘技場で殺されるコトを望んだ者たちか」
毅然と問いかける、ミノ・アステ。
「望んだのは、ボクです。もっとも、モンスターに殺されるつもりはありませんが」
答えたのは、蒼き髪の勇者だった。
「ほう。まさかモンスターを倒して、生き延びるつもりではあるまいな?」
「そのつもりで、います。ボクは、ミノ・リス王に会わなければならない」
「ミノ・リス王が、キサマのような子供にお会いになるハズがあるまい。身の程を、弁(わきま)えよ」
美貌の女将軍が、腰の剣を抜いて舞人に忠告する。
ミノ・アステが剣を振ると、剣身にクルクルと巻き付いた鞭がはがれて伸び、パシンッと大きな音を打ち鳴らした。
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