過大過ぎる評価
「何をやっているんだ、ランス。お前のプレイは、現代サッカーのそれとはかけ離れたモノだぞ!」
隣のベンチから、壬帝オーナーの怒鳴り声が聞こえて来る。
「壬帝オーナー、ずいぶんと荒れてるな」
オリビさんが、タオルで汗を拭きながら言った。
「そりゃそうさ。アレだけレギュラー陣を揃えて、同点だからな」
ロランさんも、給水ボトルでスポーツドリンクを飲んでる。
「だが、同点にされちまった。それにオレやロランに、対処されつつある気はすんな」
イヴァンさんは、身体をほぐすストレッチをしていた。
「そうだな。オレたちもバックアップはするが、決定的な仕事は任せるコトになるだろう」
「ま、オレは点決めたくて、ウズウズしんだケドな」
リナルさんとワルターさんも、それぞれに水分補給やストレッチをしている。
ボクも、オリビさんが渡してくれた給水ボトルのストローをくわえながら、自分の置かれた状況を考えていた。
間近で見たロランさんは、やっぱりスゴいプレーヤーだ。
オリビさんも、アシストだけで無く自分て得点する力がある。
対戦してみて、やっぱヴィラ―ルさんもヴァンドームさんも、一流のプロだと感じた。
イヴァンさん、ランスさん、アルマさん……みんな、高い実力を持った選手ばかりのレギュラー陣。
リアルさんやワルターさんですら、控え組なのだ。
「どうした、一馬。疲れてるのか?」
オリビさんが、気遣って声をかけてくれる。
慌てて顔を、横に振るボク。
ボクは、エトワールアンフィニーSHIZUOKAの選手じゃない。
今のこのチームは、上のリーグへの昇格を狙うデッドエンド・ボーイズにとっては、強力過ぎるライバルになる。
それだけの選手が揃っているし、そのプレッシャーをヒシヒシと感じていた。
紅白戦にしては珍しい、延長戦が始まろうとしている。
相手のベンチに目をやると、ランスさんが頭からタオルを被って座っていた。
「オイ、見ろよロラン。ランスのヤロウ、無得点のまま外されちまってるぜ」
ライバルの失態を、嬉しそうに語るイヴァンさん。
「趣味が悪いですよ、イヴァンさん」
「へへ、オレは悪趣味なんでね」
オリビさんに注意されても、開き直る野性味あふれるストライカー。
「それだけじゃ無ェぜ、見ろよ。向こうは、ユースの選手まで入れて来てやがる」
ベンチにはランスさん以外にも、試合に出ていた2人のレギュラーが座っていて、第四の審判が交代のカードをかかげてる。
「ランスが居ないとなると、相手の攻撃陣は手薄になるぜ」
「だと良いですが……」
「なんだ、ロラン。お前にしちゃあ珍しく、弱気じゃねェか?」
「交代で出て来た選手たち、倉崎 世叛や一馬と同じ高校生ですよ。壬帝オーナーが、ユースの選手も必死にかき集めてましたから」
「そりゃそうだろ。ユース組織を作るのは、リーグ昇格の条件の1つだからな」
「一馬クラスの実力が、あるかもってコトです」
「なんだよ、一馬クラスって。倉崎 世叛は別格だが、このボウズはそんなにスゲェか?」
イヴァンさんが、まっとうな指摘をした。
「ええ。その倉崎 世叛が、10番を任せた男ですよ、一馬は」
ボクの目の前で、堂々と言ってのけるロランさん。
「ハア、お前チームで10番付けてんの。確かに高1じゃ、大した実力だとは思うがよ」
「実際、大した実力なんですよ、一馬は。あのフランス人で揃えたディフェンスラインを前に、普通にやれているんですから」
メ、メチャクチャ褒められてる!?
な、なんでェ?
「そうかァ。オレには、そこまでに思えんが、まあいい。またオレは、中盤からスタートか?」
「ええ。上手く行っている陣形を変えるのは、サッカーじゃタブーの1つですからね」
「了解だ。そんじゃ行こうか、倉崎の見出した天才少年」
イヴァンさんが、ボクの背中を乱暴に叩いた。
痛い!
でもボクのビブスの背中には、なんの背番号も入っていない。
ボクは自分に対する過大な評価で、緊張しながら延長戦のホイッスルを聞いた。
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