外縁の宇宙
「幻覚なのか、本物の宇宙空間なのか……見分ける方法は、ありますか?」
メルクリウスさんに、伺いを立てるボク。
ケツァルコアトル・ゼーレシオンの周囲は、360度全てが宇宙空間であり、大気のある地球よりも遥かに多くの星々が輝いていた。
「もしこれが本物の宇宙空間であれば、ここが宇宙のどの位置か解るかも知れません」
「そ、そうですね。近くに、惑星でもあれば見つけ易いんですが」
ボクは、ゼーレシオンのセンサーアイと高性能な触覚で、周囲を探る。
「艦長、座標が解りましたよ。どうやらここは、海王星や冥王星の公転軌道に近い空間のようです」
「そ、そんなコトが。あの一瞬で、太陽系外縁の惑星軌道まで、飛ばされたって言うんですか?」
余りの事象に、慌てふためくボク。
「間違い無いと、思いますよ。ちなみに、あの小さな点が太陽です」
「ア、アレが……太陽?」
赤い、小さな点にしか見えない太陽。
「冥王星の公転軌道ともなれば、あんなモノでしょう。他にも、この辺りの軌道を通る小惑星などもありますが、どうやら近くに大きな天体は、浮かんでいないみたいですね」
いつにも増して冷静な、メルクリウスさん。
「よく、冷静でいられますね」
「いいえ、興奮してますよ。だってここは、宇宙探検家だったプルートーやプロセルピナなど、人類でも脚を踏み入れたのは数名と言う、未知の空間ですからね」
「ですが、例えツィツィ・ミーメを倒せたとして、どうやってここから帰るのですか?」
「言われてみれば……帰る方法が、思い当たりません」
まるでコメディのような答えが、返って来た。
「ウカツにツィツィ・ミーメを、倒すワケには行かなくなりましたね」
「だからと言って、すんなり従うとも思えませんが」
宇宙空間に浮かぶ、異形のアーキテクター。
真っ赤なドレスから伸びた、肋骨で構成された下半身を長く伸ばして、襲い掛かって来た。
「クッ、ブリューナグ!」
咄嗟(とっさ)に光弾を放つが、すでに発生させてからかなりの時間が経過していたため、数本の肋骨を破砕した程度で消滅してしまう。
「まさか宇宙戦を強いられるなんて、思っても見ませんでしたよ。だけど水の中よりは、遥かに動きやすい。これで、ダメージを与え続ける!」
フラガラッハを抜き、ツィツィ・ミーメに対抗するゼーレシオン。
「宇宙空間では、元素すらまばらにしか存在しませんからね」
メルクリウスさんのテオ・フラストーが、援護を買って出た。
「まずは、下半身から攻撃してみます」
「ええ、気を付けて下さい」
赤いドレスから伸びた蛇のような下半身の、肋骨1本1本が独立した意思を持っているかのように、ケツァルコアトル・ゼーレシオンに攻撃を仕掛けて来る。
けれども、全てを斬り裂く剣には太刀打ちできず、宇宙空間に残骸(デブリ)として散って行った。
「やりますね、宇宙斗艦長。上半身には髪の毛意外に、脅威になりそうな装備は無さそうです」
「ゼーレシオンで、上半身に突っ込みますから、援護を!」
「了解ですよ、艦長」
白い髪の毛が長く伸び、宇宙空間に五芒星の如く広がって、ゼーレシオンを捉えようとする。
けれども、テオ・フラストーのガントレットから発射される光弾が、髪の毛を破砕して行った。
「ナイス、メルクリウスさん。これで、アレの懐(ふところ)に、飛び込める」
ゼーレシオンは、髪の毛の攻撃をかい潜り、ツィツィ・ミーメの細い胴体の前に到達する。
「フラガラッハ!!!」
全てを斬り裂く剣が、胴体を真一文字に一閃した。
「やりましたね、艦長」
僅かに女性らしいフォルムを残す胴体が、左右に切り開かれる。
「な、なん……で?」
ゼーレシオンのセンサーアイが、胴体の内部の様子を鮮明に捉えた。
「ど、どうしたんです、艦長」
「ひ、人が……人が、乗っているんです」
ツィツィ・ミーメの胴体内部にはコクピットがあり、その中には女性らしき人の姿があった。
「アーキテクターでは無く、サブスタンサーだったと言うのですか」
「そ、そんなコトは、どうだってイイんです。なんで、貴女が……」
「一体、誰が乗っていたと言うのです?」
テオ・フラストーが、ゼーレシオンの隣に並ぶ。
「ミ、ミネルヴァ!?」
大きな声を上げる、メルクリウスさん。
コックピットには、死んだハズのミネルヴァさんが乗っていて、ボクを見つめていた。
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