少年奴隷
「ミノ・リス王を、討ちに来たってどう言うコトだ?」
白い月の浮かぶ窓から入って来た男に、問い質(ただ)す舞人。
「そんなコトも解らないんだな、お前は。オレは、ミノ・リス王を殺す予定なのさ」
ティ・ゼーウスは、船長たちのイビキが鳴り響く部屋でマントを脱ぎ捨てた。
大きなマントは、ベッドの上にフワリと舞い落ちる。
「……モゴッ、モゴモゴ!?」
「フガッガガッ!!」
「ボドドォ!」
顔にマントを被せられ、窒息しそうになるティンギス、レプティス、タプソスの3人の船長。
「これで、少しは静かになると良いが……」
ティ・ゼーウスは、みすぼらしい皮の鎧を装備していた。
その下には薄汚れた貫頭衣と、粗末な身なりをしている。
「解っているさ。どうして殺そうとしているかを、聞いているんだ」
「なんだ。だったら、最初からそう言えよ」
アッシュブロンドの少年は、3人の船長の寝るベッドに腰を掛け、説明を始める。
「ミノ・リス王は、強大な軍事力を用いて周辺の国々に戦争を仕掛け、制圧して行った。オレの生まれた国も、そんな国の1つさ。ラビ・リンス帝国に戦争で破れて、毎年大量の貢物(みつぎもの)を要求されるようになった」
「貢物か。確か3日後に、周辺の諸国から貢物を乗せた船が来るって……」
「ああ。酒や食料、武器……それに、人間もな」
「に、人間って、人間も貢物なのか?」
「驚く話でも、無いだろう。いわゆる、奴隷(どれい)ってヤツさ」
さらりと言ってのける、 ティ・ゼーウス。
「ミノ・リス王は、奴隷まで要求してるのか」
「戦争では、よくある話さ。オレも、その奴隷の1人なんだ」
ティ・ゼーウスの身なりを再確認し、やっと気付く舞人。
アッシュブロンドの少年からは、奴隷にありそうな卑屈さや悲壮感は、感じられなかったからだ。
「帝国はオレの国に、1年に1度、7人の少年と7人の少女を差し出すように要求して来た」
「な、なんの為に?」
「ミノ・リス王は、性に関しても強欲だ。少女だけでなく美少年を好むって、評判なんだよ」
「それじゃあティ・ゼーウスは、ミノ・リス王に献上されるハズの奴隷なのか?」
舞人の前に立つ少年は、美目麗(みめうるわ)しい美少年だった。
「奴隷を運ぶ船も、それぞれの国の自前なんでな。事前に偵察をする目的で、潜入したってワケさ」
「な、なんだ。偵察か」
「イヤ、王を殺すぞ。偵察と言うのは、あくまで船にそう伝えてあるだけだ」
「ええ!?」
「そこで、お前の力を借りたい」
「なんで、ボクなんだよ!」
「昼間の一件でな。お前、あのデカい図体のハゲに殴られたとき、ステップ踏んでダメージを最小限に抑えただろ?」
「ま、まあそうだケド」
「見た目は頼りない感じだが、お前はかなりの強さと見た。オレに、協力しろ」
「王サマの暗殺になんて、協力できないよ」
「オレはいずれ、王となる予定だ。そのときお前に、欲しいモノをくれてやる」
ベッドから立ち上って、舞人に迫るティ・ゼーウス。
舞人はジリジリ後退しながら、断る理由を思案した。
「イヤ、ボクはこう見えて、3隻の商船の船団長なんだ」
「お前が、商人だとでも言うのか?」
「商人ってホドでも無いケド、ヤホーネスに武器を売る街を建設中ではあるかな」
「本当か?」
舞人の顔を、じっくり見定めるティ・ゼーウス。
「嘘を言っている、目では無いな。オレは、相手の嘘を見破るのは得意なんだ」
しばらくすると、ため息を付いて再びベッドに向かった。
「仕方ない。お前に、協力をさせるのは無理そうだ」
船長たちの顔からマントを剥(は)ぎ取り、窓から外に出ようとするティ・ゼーウス。
「暗殺は、中止するんだな」
「イヤ、オレ1人でも決行する」
「どうして?」
「仲間が、死ぬからだ。戦争に負けて以来、ミノ・リス王に献上された奴隷は、誰1人として帰って来ていない。どうなったかまでは解らないが、恐らくは……」
アッシュブロンドの少年は、全身をマントで隠して窓の外へと消えて行った。
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