ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第13章・34話

マントの男

 宿屋の共同食堂の食卓には、大量の魚料理が並んでいた。
ソテーや蒸し焼きの他に、塩釜焼などの珍しい料理もある。

「これはご主人サマよ。大量の魚を『釣って』来てくれて、感謝するぞェ」
 ルーシェリアは、トゲのある言葉で舞人の手柄を労(ねぎら)った。

「うるさいな、仕方ないだろ。食べれる魚を、捨てちゃうなんてもったいない」
 食卓に並んでいる魚料理は、どれも舞人がぶつかった屋台の樽の中に納まっていたもので、舞人はそれを屋台の主から買い上げて来たのだ。

「舞人さまは、悪くありません。元はと言えば、わたし達の責任なんです」
「それに市場の人たちも、若いのに立派だって感心しておられました」
 ウティカとルスピナが、舞人の弁護に周る。

「わかっておるよ、冗談じゃ」
「最近ルーシェリア、ボクに厳しくないか」
 膨れ面の、蒼き髪の勇者。

「話は変わるが、船団のオーナーさまよ。アンタやルスピナたちを助けた、マントの男とやらは一体何者なんだ?」
 貝殻のアクセサリーで飾られたドレッドヘアに、コーヒー色の肌をした船長が言った。

「残念ですが、まったく解りません。マントの隙間から見えた身体から、タブン男だとは思うんですケド……すぐ、どこかに行っちゃいましたし」

「そりゃそうだろ、ティンギス。なんせクレ・ア島には、始めて来たんだぜ」
「例えマントをしてなくったって、誰だかわからないだろうよ」

 シャイニーレッドの長いモヒカンに白い肌の船長と、ピーコックグリーンのショートドレッドにダークブラウンの肌の船長が、突っ込みを入れる。

「うっせ、レプティス、タプソス。ま、確かに言われてみれば、クレ・ア島に知り合いはいねェか」
「今喰ってる魚だって、海辺の村の近海じゃ見かけない種類だぜ」
「こっちの干した魚なんて、かなり珍しい種類だぞ。良い商材になりそうだ」

「ならば明日は、帰りの船倉になにを収めるかを決めるために、皆で市場を見回ろうでは無いか」
「ちょっと、ルーシェリア。ボクたちの目的は……」

「今は商船団の主じゃろ、ご主人サマは。しっかり、働いてもらわねばのォ」
 宿屋の給仕係や、他の客も行き交う共同の食堂にあって、周りの目や耳を警戒するルーシェリア。

「そ、そうだよな。ところで予算は、どれくらいあるんだ?」
「今回の航海で、3隻の中型船に積んで来た荷は食料での。すべて、軍の買い上げとなったのじゃ」

「戦争を仕掛ける前だけあって、食料品の価格も値上がっているぜ」
「お陰で、かなりの利益を出せている」
「帰りの船にも、利益になる商品を載せたいモンだ」

「3人とも、商船の船長が板についてきたの」
 ルーシェリアが、休業中の漁船の船長たちに向かって言った。

 それから食事を終えた一行は、クレ・ア島での最初の夜を迎える。
ルーシェリアは、ウティカとルスピナと共に女性だけで部屋を取り、舞人は3人の船長のイビキが響く部屋で、ベットに潜り込んだ。

「う、うるさいな。騒音なんてレベルじゃないよ、この人たち」
 眠るコトが不可能だった舞人は、ベットを出て窓の外を眺める。
静かな海を照らす、蒼い月。

「うわッ、なんだ!?」
 宿屋の小窓(ドーマー)の先に、マントの男が立っていた。

「あ、あの人、昼間の……」
 舞人が驚いていると、マントの男はドーマーの屋根を歩いてきて、舞人の居る窓をコンコンと叩く。

「開けろって、コトか」
 舞人が窓を開けると、マントの男は颯爽(さっそう)と部屋に飛び込んで来た。

「アナタは、昼間に助けてくれた人ですよね。ありがとう……」

「礼は、いいさ。それより、少しばかり協力しろ」
 マントの中から、男の声が聞こえる。
大人の声では無く、キレイな少年の声だった。

「キミは……誰だ?」
 問いかける舞人の前で、男はマントのフードを外した。
零れ落ちたアッシュブロンドの長髪が、月灯りで淡く輝く。

「オレの名は、ティ・ゼーウス。ミノ・リス王を、討ちに来た」
 髪で片方だけ隠れた碧眼が、舞人を見つめていた。

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