3姉妹の娘たち
3人のショチケが、カプセルベッドから上半身を起こし、紫色の瞳でボクを見つめている。
彼女たちの褐色の手脚や身体には包帯が巻かれ、負傷しているのが見て取れた。
「ショチケは、どうした」
「死んじまったよ。今は、このセノーテの底に眠っている」
「他の2人の姉妹と、共にね」
「だったら、キミたちの名前はなんだ。ショチケじゃ、ないのか?」
困惑がさらに深まったボクは、3人に問いかける。
「アタシは、セシル・ムラクモだ」
「セレネ・ムラクモだよ。ヨロシクね」
「セリス・ムラクモさ」
「ムラクモって……まさか!?」
予想した通りの、答えだった。
「アタシらの母が、言っていたよ」
「かつて、自分たち3姉妹を愛した男が居たってね」
「ソイツの名前ってのが、ムラクモ=ソラト」
「お、おじいちゃん!」
「イ、イヤイヤイヤイヤ。そんなハズは……」
明らかに怒ってるセノンを、とりあえずなだめる。
「そ、それじゃあの夢は、現実だったのか。だからと言ってショチケたちと交わってから、その娘たちがこんなに大きく成長してるなんて……」
「やっぱ身に覚えが、あるんですね!」
「な、ないよ。完全にないかと言えばウソになるが、とにかくつじつまが合わないコトが多いんだ」
「言いワケなんて、聞きません。一体、何人子供を作れば気が済むんですか」
そう言えばボクは宇宙に、60人もの娘たちを残して来ている。
彼女たちの母親は時の魔女であり、ボクが1000年の眠りに就いているときに、人工子宮を使って無断で生み出した子供らしい。
「ま、まあまあ、セノン。ところで、他の6人もそうなのか?」
厄介なコトになると感じたボクは、かなり強引に話題を切り替えた。
「アタシらの母は、マクイだね。アタシの名前は、マレナ」
「同じくマクイの娘で、マイテさ」
「末っ子の、マノラだよ」
母のマクイと同じ、黄色い肌にチョコレート色の瞳で、黒髪を編み込んだ髪の少女たち。
ボクの血が半分入っているからか、顔立ちは少し異なり、なにより髪をクワトロテールにしている。
「アタイらの母親は、チピリだよ。アタイは、シエラ・ムラクモさ」
「アタイは、シリカ・ムラクモだよ。アンタが、オヤジか」
「アタイは、シーヤ・ムラクモ。でも、オヤジなんて今さらだケドな」
チピリと同じ白い肌に、編み込んだ金髪をクワトロテールにした3姉妹たち。
9人の少女たちは、父母の無いまま兵士として生きてきたのだ。
「コイツァ、驚いたぜ。まさかアンタの、娘だったとはな」
「彼女たちの母親は、3人とも貴方の娘なんですよ。ドス・サントスさん」
「ハア。お前たち、そんな話聞いているか?」
ドス・サントスは、3姉妹の9人の娘たちに目を向ける。
「さあね。母はナゼだが、父親のコトはたまに話してくれたケド……」
「自分の両親については、なにも話してはくれなかったよ」
「人工子宮で生まれたコは、親がどこの誰かなんてわからない場合も多いからね」
セシル、セレネ、セリスの、3姉妹が言った。
「今、DNA鑑定をしてみたんだケドさ」
「確かに、ドス・サントス代表とアタシたちは、血が繋がってるみたいだね」
「まさか、代表の孫だったなんて驚きだよ」
コミュニケーションリングで検査をしたのだろう、マレナ、マイテ、マノラの3姉妹が、顔を見合わせ驚いている。
「オレはてっきり、お前たちはクローン人間なのかと思ってたんで、深くは追求しなかったんだがよ。まさか自分の孫だなんって、思ってもみなかったぜ」
「9人の孫がいきなり現れたのに、意外と反応が薄いですね。孫たちの方も、なんだかそこまで驚いていないみたいだし」
「そりゃそうさ。人工子宮があって、両親が死んでたって子供が生まれるご時世だ。オレらの生きていた時代とは、常識からして違うのさ」
「なるホド……な」
プリズナーが言った言葉を、21世紀の人間が聞いたらどう思うだろうか。
そんな思考を廻らせながら、ボクは9人の新たなる娘たちと対峙していた。
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