3姉妹との再会
「どうか、安らかにお眠り下さい。ミネルヴァさん……」
僅かな期間とは言え、共に地球に降り死線を潜り抜けた、クワトロテールの女性に思いをはせる。
「……ん?」
セノーテの深淵に消えたミネルヴァさんの髪飾りが、一瞬だけ光ったような気がした。
「どうしたんですか、おじいちゃん?」
「イヤ、なんでもないよ」
ボクは、セノンに背を向けていた。
「有難うございます、宇宙斗艦長。ミネルヴァも、地球に僅かばかりに残された美しい水に眠れて、喜んでいるコトでしょう」
太陽系最大の意思決定機関に属していた男が、ボクに礼を言う。
ディー・コンセンテスに置いて、ミネルヴァは組織の筆頭(トップ)であり、地球の意志を組織に反映させるために、200年もの間働いて来た。
仕事を終えたミネルヴァに対する、尊敬と遺愛を込めた言葉だった。
「ええ。ですが本当にミネルヴァさんが望んでいたのは、本来の青い空と海、緑の木々に覆われた、美しい地球だったのではないでしょうか」
「今の地球には、望むべくもありません。ですが彼女の遺志として、それは目指して行かなければならない課題でしょう」
「ま、今や火星だって空気もあって、川が流れて人が住める場所になってんだ」
火星圏生まれの、真央が言った。
「地球だって、そのウチなんとかなるかも……」
「アタシのルーツであるハワイだって、そのウチ海の中から顔を出すかもね」
ヴァルナとハウメアも、楽観論を唱える。
「気楽な嬢ちゃんたちだぜ。だが地球を元に戻すんなら、それくれえの気構えの方がイイのかもな」
ドス・サントスは、豪快に笑った。
「ところで、ドス・サントスさん。ボクたちの力を、借りたいとのコトでしたが?」
「ああ。実は、セノーテ候補地の1つに、敵対的なアーキテクターの部隊が進入してよ。占領されちまってんだ。ウチのサブスタンサーの部隊を、向かわせたんだが……」
「ギャハハ、あえなく返り討ちってか?」
「いい加減になさい、プリズナー。それより、部隊の生き残りは居るのですか?」
「ああ。37機の前衛部隊は全滅したが、後衛バックアップの9機だけは早めに戦線を離脱して、なんとか帰還できた。パイロットに、会ってみるかい?」
「はい。敵の戦力がどんなモノかは、知って置きたいですからね」
「もっともだ。付いて来な」
ドス・サントスの背中を追って、セノーテの吹き抜けの縦穴に廻らされたスロープを登る。
竪穴の壁に掘られた住居や店を通り過ぎ、それらと似たような施設に入った。
「ここはサブスタンサーのパイロットたちの、詰所だったところだ。今は、ご覧の有り様だがよ」
部屋は静寂に包まれ、パイロットたちが使っていたであろう、ロッカーだけが並んでいる。
「奥に、生き残ったヤツらが眠っている。全員女だからよ。悪いが、先に見てきてくれ」
ドス・サントスが、セノンや真央に向けて言った。
「わ、わかりました」
「艦長、覗くんじゃねぇぞ」
「の、覗くかよ、真央!」
4人の少女は、救護室と思われる部屋へと入って行き、しばらく経って出て来る。
了解を取って部屋に入ると、中にはカプセル型のベットがいくつも並んでいた。
「なッ……ショチケ、マクイ、チピリ!?」
部屋に居たパイロットは全員が少女たちで、ベットに寝たり上半身を起こしたりしている。
夢に出て来たショチケ、マクイ、チピリの3姉妹と、3人ずつがそっくりな顔や肌の色をしていた。
「ど、どうしたんですか、おじいちゃん?」
「また幻覚でも、見てんじゃねェのか?」
「あ……イ、イヤ。どうやら、幻覚では無いみたいだ」
9人の少女たちは、ショチケ、マクイ、チピリに似た顔立ちではあるものの、よく見ればけっこう3姉妹とは違っていたし、髪型も全員が編んだ髪をクワトロテールにしている。
「貴方が、群雲 宇宙斗だね?」
ショチケに似た、3人のウチの1人が言った。
「ボクを、知っているのか?」
「イヤ、まだ伝えてねェんだがよ。どうして知ってんだ?」
困惑する、ドス・サントス。
「母の名前を、知っていたからさ。アタシの母の名前は、ショチケ」
ダークブラウンの肌に、茶色とピンク色の髪を編み込んだクワトロテールの少女は、紫色の瞳にボクを映していた。
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