ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第01話

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思わぬ生徒

 1週間が過ぎ去り、次の1週間がやって来た。
ボクの教師としての人生が、最後となるかも知れない試練の1週間だった。

「やれるコトは、出来る限りやったハズだ」
 洗面台の鏡に映った顔が、緊張で強張っている。

「あとは生徒たちを、信じるだけじゃないか」
 頬を叩いて気合を入れ、顔に冷水をかけた。

 オーブントースターに放り込んであったパンを取り出し、インスタントのコーヒーを煎れる。
いつもやっているルーティーンのハズが、今日はパンを口に運ぶ気にならなかった。

「テストを受けるのは、ボクじゃなく生徒たちだってのに……」
 落ち着かないボクは、コーヒーだけ口に入れて、パンはオーブントースターに戻す。
ソファに座って、見たい番組もないのにテレビを付けた。

『本日、ゲリラライブがあるとの情報が、いきなり飛び込んで来ました。もちろんライブが行われるのは、先日正式名称が決まったユークリッド・フェリチュタスアレーナです』
 女性リポーターが、興奮気味にまくし立てる。

「な、なんだって!?」
 ボクが驚いた理由はもちろん、アレーナの正式名称が決まったコトなどではなかった。

『多くの公募の中から命名権を獲得したのは、アメリカのネットショッピング大手であるフェリチュタスグループで、5年で1兆円ともウワサされており……』
 ボクにとってはどうでもイイ情報を聞きながら、手早く身支度を整える。

「今日は、みんなのテストがある日だってのに……どう言うコトだ」
 慌てて家を飛び出し、地下へと続く階段を駆け降りようとした。

「待てよ。テレビに映ってた女性リポーターの背中に、大勢のマスコミ関係者が集まりかけていたな」
 ボクは地下鉄移動をあきらめ、振り返った先にある大通りで、タクシーを呼び止める。

「すみません。天空教室のあるマンションの、地下駐車場に行って下さい」
「お客さん……わかりました。地下駐車場に付ければいいんですね」
 初老の運転手は、ボクの顔を見ただけで納得した。

 多くの車で詰まった車道を走る、タクシーが左折する。
マスコミの局のロゴが入った車も、同じ方向へと左折して来た。

「お客さん、なんかあったんですかい?」
 答えたくなければ聞き流すといった態(てい)で、質問を投げかける運転手。

「今朝、ユークリッドのアイドルたちの、ゲリラライブがあるとの発表があったんですよ」
「それでこんなに、マスコミ連中が集まってるんですか。へェ~」
 初老の運転手にとっては、どうでもイイことなのだろう。

「お客さん、どこかで見た顔だと思ったら、天空教室の先生じゃないですかい。有名人を乗せるトコになるとは……孫に自慢しても構いませんかね?」

「えッ、ええ。まあ構いませんが、ボクはそこまで有名じゃないですよ」
「ご謙遜なさって。ウチの孫は女のコなんですがね。先生のファンなんですよ」

「ボ、ボクのファンなんですか!」
「勉強嫌いで、ユークリッドの動画もぜんぜん見なかったんですがね。先生の授業の動画を見て、勉強する気になったみたいなんですわ。わかり易いし、優しそうだし、可愛いって言ってましたよ」

「か、可愛い……ボクが?」
「おっと、マンションの前に、マスコミ連中が群がってますわ」
 後部座席からフロントガラスを見ると、カメラやマイクを持った異様な集団が陣地を構築していた。

「こりゃまた、凄い数ですな。自分たちの違法駐車は、ニュースにしないんですかね」
 中継車の間を縫うように走るタクシーは、地下へと入って行く。

「ありがとうございます。お孫さんに、宜しくお伝えください」
 ボクはタクシーを降り、運転手に礼を言った。

「礼儀正しい先生だ。孫が、好きになるワケですぜ」
 窓の向こうで、小さく頭を下げる運転。
タクシーは地上へと続くスロープを抜け、マスコミの構築した陣地へと引き返して行く。

「思わぬところに、生徒も居るんだな」
 ボクは頬を叩いて気合を入れ、エレベーターホールへと向かった。

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