マー・メイディアの女王
太陽の光が底まで届くほど、澄んだ海。
マー・メイディアの兵士たちも、半分は監視役としてスグアバ号の周りに残り、もう半分は王たちを先導して、サンゴの街へと案内した。
「間近で見ると、より一層キレイなのがわかるな。まるで絵画みたいに、色取り取りのサンゴの家が建ち並んでる」
海人であるバルガ王と2人の側近は、苦も無く海中深くへと潜って行く。
「そうだな、キティオン。遠目にはサンゴをくり抜いて、家にしてるのかと思ったけどよ。どうやらサンゴ自体を、家のカタチに生育させてるみたいだぜ」
ベリュトスが、サンゴの家の建築方法を推測する。
「それにしたってだ。サンゴなんて生育するのに、とてつもねェ時間がかかるぞ。これだけの規模の街を創るのに、何年の歳月をようしたんだ」
バルガ王の感嘆の声を聴き、マー・メイディアの兵士たちも少しだけ警戒を緩めた。
「バルガ王。わたしは防衛隊の隊長を務める、ステュクスと申します」
名乗りを上げる、女性のマー・メイディア。
「オケ・アニスの女王ペイトーさまは、地上にあった交易の街が津波で失われてしまい、お嘆きでございます。同じ海に生きる者として、どうかお力添えをお願いしたいのですが」
彼女は、ウェーブのかかったサックスブルーの髪に、コーラルグリーンのホタテ貝を装飾した胸当てをしている。
バイオレット色の瞳に、ミントブルーの魚の下半身をしていた。
「実はこちらも、同じ考えを持ってやって来たのさ」
「誠でございますか、バルガ王?」
「ああ。詳しい計画は、女王に会ってから話すぜ」
ステュクスに案内されたバルガ王ら一行は、海底からそびえるサンゴのタワーへと辿り着く。
3方向に巨大な根を伸ばした、艶やかな城の内部へと入って行った。
「城の中は、海水が抜かれているんだな」
「はい。我らマー・メイディアは、かつては海の中のみでしか生きられませんでした。ですが秘薬によって人の脚を得てからは、むしろこちらの方が暮らしやすいのです」
ステュクスの魚の下半身はいつの間にか、先端が割れてマーメイドスタイルのドレスとなっている。
他の兵士たちも同様で、ドレスの中には人の脚があって、普通に城の床を歩いていた。
尾ヒレは、後ろにピンと跳ねあがっている。
「秘薬とは、凄まじい効果だな。便利なモノだぜ」
「かつて地上に憧れた、同胞の犠牲があってのコトです」
「そうかい。事情も知らず、軽口を叩いちまったな」
ステュクスに率いられた一行は、らせん状の階段を上へ上へと昇って行く。
巻貝の中を歩くように、上へ行くホド階段の幅も狭くなって行った。
「ここが、女王ペイトーさまの玉座にございます」
話しているうちに一行は、大きな白い扉の前に立っていた。
ステュクスに従っていた、マーメイドスタイルのドレスの兵士たちが、左右に別れて扉を開く。
「久しいですね、バルガ。もっともお前は赤子だったゆえ、わたくしのコトは覚えてはいないでしょう」
真珠やサンゴの宝飾が散りばめられた、玉座に座った女性が言った。
「悪ィな、ペイトー女王。オレと、会ったコトがあるのかい?」
「そうですね。お前と言うより、お前の母親に会ったと言うべきでした」
「お袋……か」
女王は、真っ白な髪が上に向かって伸びている盛り髪で、白いドレスに真珠を散りばめている。
肌も透き通っていて、蒼い宝石のような瞳をしていた。
「残念だがよ。海の女王であるシャラ―・ベラトゥは、サタナトスの手下によって……」
「いいえ、そうではありません。お前の、本当の母親に会ったのです」
「オレの、本当の母親……ま、まさか!?」
「わたくしは、まだ人の心を持っていた頃の、美しいメ・ドゥーサに会ったのです」
マー・メイディアの女王は、バルガ王の過去に関わる秘話を伝えた。
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