ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第09章・第25話

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ヒザ枕

「先生、早くしてよね」
 黒髪の少女が、ボクを急き立てる。

「そんなコト言ったって、こっちはアツアツのコーヒーなんだぞ」
「なんでそんなモノ、注文するのよ」
「まさかこんなに早く、出て来るとは思わなくてだな」

 ボクは喋ってる合間にコーヒーをすすって、カップをなんとか空にする。
レジで会計を済ませると、慌ただしく喫茶店を飛び出した。

「あ、居た。タリアと袴田よ」
「けっこう、離れてしまったな。速足で、ある程度まで距離を詰めるか」
 ボクとユミアは、車道の向こう側の歩道を歩く2人に追いつこうと、脚を動かす速度を速める。

「横断歩道で、向こう側に渡った方が良くない?」
「そうだな。奥の道に入られたら、見失ってしまいそうだ」
 横断歩道を駆け抜けようとするが、中央分離帯でユミアが止まってしまった。

「ゼェー、ゼェー、ゼェー!」
「大丈夫か。地下鉄の階段を昇るときもそんな感じだったし、キミの若さで運動不足が過ぎるぞ」

 車道側の信号が青に替わり、目の前を車が激しいスピードで行き交う。
ボクは安全のため、俯(うつむ)いたユミアの肩を抱えた。

「2人が、見えなくなってしまったな。もうすぐ信号が青になる。そろそろ、走れるか?」
 1分ほどの時間が経過すると、車道の信号が赤に変わり、荒々しい車の群れがピタリと停まる。
歩道側の信号が青になっても、黒髪の少女は頭を下げたままだった。

「どうした。まだ息が切れてるのか?」
「……なし……」
「ン、なんて言った。聞こえな……」

「い、いつまで手を掛けてんのよ。放してって言ってるでしょ!」
 ユミアがいきなり、顔を真っ赤にしながらスゴイ剣幕で怒り出す。

「悪い、悪い。それより急ごう。2人を完全に見失ってしまう」
「もう、言われなくたってわかってるわよ。先生のバカ!」

 ユミアは横断歩道を先に行ってしまったので、ボクも慌てて後を追う。
右側に入って行く道路を、1本1本確認しながら歩くが、2人の姿を見つけるコトはできなかった。

「もっと先で、右に折れたのかしら?」
「どうだろうな。あそこに公園がある。休憩するか」
「そうね。公園なら、辺りの道路がどうなってるか、確認しやすいし」

 ボクたちの意見は合致し、公園へと向かう。
表通りから奥まった場所にある公園は、背の高い木々に囲まれ街の喧騒からは隔絶されていた。
公園には、砂場や滑り台などの遊具が1通り揃っており、幼い子供たちが遊んでいる。

「なんだか、落ち着く場所ね。こんな公園に来るのも、久しぶりだわ」
「そうだな。都会に居ると、慌ただしさにかまけて、安らぐのを忘れてしまうからな」

 辺りには小鳥のさえずりが聞こえ、子供たちの無邪気な声も響いていた。

「ボクにも家族ができれば、こんな公園で子供を遊ばせたりするのかな」
「そ、そうね……」
 ボクたちは、公園のベンチに座る。

「良かったら、ヒザ枕でもしてあげようか?」
 黒髪の少女が、はにかみながら言った。

「それじゃ、お言葉に甘えて……」
「うわッ、チョ、チョット!?」

 冗談だと判断したボクはベンチに横になって、ユミアの腿に頭を乗せる振りをする。
……つもりだった。

「ア、なにやってんだ。テメーら」
 とつぜん、男の声が聞こえる。
ボクにとってそれは、聞いたコトのある声だった。

「オワッ!?」
 寸でで止めようと思っていたボクはバランスを崩し、そのままユミアの腿に頭を乗せてしまう。

「きゃあッ!」
 柔らかい枕に受け止められた、ボクの頭。
顔の上にあった少女は、事件性のある悲鳴をあげた。

「ス、スマン。これは、不可抗力であってだな……」
 腹筋を総動員し、ユミアのヒザ枕から起き上がるボク。

「オイ、先こう。公園で生徒相手にイチャついてるなんて、大した不良教師だな」
 そう言ったのは、袴田 凶輔(はかまだ きょうすけ)だった。

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