てりやき弁当
ボクは、オリビさんの家に外泊をした。
静岡県出身のオリビさんが言うには、静岡県と言うのは東西にやたらと長いらしい。
「一馬、キミには迷惑を、かけっぱなしですまない」
オリビさんは静岡県にある実家から、かなり離れた県内のアパートに暮らしていた。
「……」
4畳半の部屋に置かれたちゃぶ台の前で、ボクは顔を横に振る。
昨日からオリビさんは、まるで自分が問題を起こしたかのように、何度もボクに謝ってくれた。
「ロランのヤツと来たら、昔から思い込みが激しくてね。一旦こうと決めたら、周りを見ずに突き進むんだ。お陰でなん度も、尻拭いをさせられてさ」
そう言うとオリビさんは、ちゃぶ台の上にコンビニ弁当を置いた。
「悪いが、あまり料理は得意でなくてね。こんなモノで、申しワケ無いんだが……」
20歳のオリビさんが、まだ高校1年のボクに気を遣ってくれる。
有難く手を合わせて、弁当の包みを開けた。
中身は鳥のてりやきで、タルタルソースがタップリと乗っている。
オリビさんは、インスタントのみそ汁も淹れてくれた。
「昨日、倉崎 世叛と、連絡を取ったよ。なんでも、ロランはもう少しだけ名古屋に居座るみたいだ」
……そっか。
相手が倉崎さんなら多少は喋れるケド、ボクなんかより、大人でしっかりしてるオリビさんとやり取りした方が、確実だよね。
「その間なんだが、しばらくロランの振りを続けていてくれないだろうか?」
ボクが1口目のご飯を口に運んだタイミングで、オリビさんが言った。
「ムグゥ!?」
「わ、悪い。大丈夫か?」
500ミリリットルの、ペットボトルのお茶を差し出してくれる、オリビさん。
「プハァッ……ゲホゲホ!」
ご飯が、ヘンな方に入っちゃった。
でも、それどころじゃない!
「そりゃ、驚くよな。キミはまだ高校1年生で、授業だってあるんだ。本来であれば、こんなコト頼める立場じゃないコトくらいは、理解しているつもりだ」
ちゃぶ台の上にこぼれたご飯を、布巾で掃除しながら、オリビさんが言った。
「キミには、ロランがどうしてあんなバカげた行動をしたのか、ちゃんと話してなかったね」
そう言えば昨日は、オリビさんと2人になるときなんて無かった。
名古屋からバスに揺られて静岡に来る間も、ボクはロランってコトになってたし。
練習試合だって、ロランさんの替わりに出て、あんな結果に……。
「アイツが、キミを代役に立ててまでチームを抜け出したのは、新人アイドルだったアイツの姉さんが、自殺した事件が原因なんだ」
オリビさんの言葉に、ボクは思わず口を開けたまま箸を降ろす。
「いきなりハードな話で悪いんだが、そう言うコトなんだ。アイツは姉の死に不審感を抱き、それを調査するためにチームを抜け出した」
オリビさんはそれから、ロランさんと亡くなったお姉さんの話をしてくれた。
ロランさんは、お姉さんの死の真相を知るために、ボクと入れ替わってまで名古屋に残ったんだ。
そう思うと、名古屋に帰りたいなんて言っていいのか、躊躇(ためら)ってしまう……。
美味しかった弁当も、すっかり冷たくなっている。
「やはり、止そう。無関係のキミに、これ以上迷惑はかけられない……」
オリビさんは、なにかを復吹っ切るように言った。
「悪かったな、ヘンな話をしてしまって。キミの弁当も冷めたから、もう1度温めよう」
オリビさんは食べかけの弁当にフタを被せると、電子レンジの中に入れる。
オリビさんは、どうしてボクに代役を続けるように言ったんだろう?
ホントはもう1度ロランさんに、チームに戻って来て欲しいんじゃ……。
クルクルと周る、電子レンジの音だけが聞える。
しばらくすると、『チン』と音が鳴った。
「少し鶏肉が頑くなったかも知れないが、許してくれ」
オリビさんがちゃぶ台に、再び熱くなった弁当を置いてくれる。
「ネットで、名古屋までのチケットを取っておくよ。ここからだと、けっこう乗り継ぎが面倒になるが、夕方くらいには向こうに着けるハズだ」
パソコンでも置いてあるのか、隣の部屋に行くオリビさん。
「ま……って……ボ、ボ……」
ボクは必死に、口を動かそうとした。
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