3人の大柄漁師
「ティンギス、アンタをこの村の長とする」
バルガ王が、目の前で片膝を付いたコーヒー色の肌の男に言った。
「オレなんかで良けりゃあ、任されたぜ。今はキレイさっぱりなにも無くなっちまったが、これでもオレの生まれ故郷なんでな」
男はドレッドヘアを振りながら立ち上がる。
2人の周囲には、真っ白な砂浜が広がっており、淡い波の音が響いていた。
サファイア色の海は透き通っていて、サンゴ礁の合間を魚が泳いでいるが、建物の影すら見当たらない。
「ま、現時点ではな。だけどよ、これから創り上げて行くんだ」
「そいつァ、楽しみだぜ。だがまずは、コイツらの話を聞いてやってくれ」
ティンギスの背後に、2人の男が控えていた。
「バルガ王、挨拶も礼も遅れちまってすまねェ。オレの名は、レプティス。陸に打ち上がった船を見つけてくれなかったら、今頃は森ン中で干からびていたぜ」
男は、シャイニーレッドのモヒカンを背中まで垂らし、漁師にしては白い肌をしている。
ティンギスと同じくらいの背丈で、銀色のスケールメイルを装備していた。
「オレは、タプソス。仲間共々救っていただき、感謝する。村の再建には、できる限り協力させて貰う」
寡黙そうな男が、頭(こうべ)を垂れる。
タプソスもやはり、ほかの2人と同様の長身で、ピーコックグリーンのショートドレッドに、ダークブラウンの肌をしていた。
巻貝のようなデザインの、いぶし銀の武骨な鎧を纏っている。
「コイツらは、中型漁船の船長を任されてるホドの男たちだ。きっと、役に立つぜ」
「もっとも今は、自慢の漁船が陸に打ち上がっちまってるがよ」
「力仕事であれば、任せてほしい」
「助かるぜ。正直に言うと、こっちも人手不足が甚(はなは)だしいんだ。アンタらの力、貸してくれ」
バルガ王は、ティンギス、レプティス、タプソスの3人の漁師と握手を交わした。
「ところでよ。村の再建っつっても、オレもコイツらも本業は漁師だ」
「漁の無い時期に、用兵くらいはやったコトあるがよ」
「村を創るなんて、壮大な絵は描けない」
「心配すんな。それについちゃ、オレも同じだからよ」
「オイオイ、同じって威張って言うコトじゃないだろう……」
「まさか、計画も無しに村を創る気じゃないでしょうね」
キティオンとベリュトスの、2人の側近に心配されるバルガ王。
「そこまで無計画でもねェぜ。ただ、オレらよりも適任者が居るって話しさ」
バルガ王は、集まった一同の後ろに浮かんでいた、大魔導士に視線を移す。
「バルガ王。この方は誰だい?」
「さっきから苦も無く、宙に浮かんでいるが」
「もしかすると、高名な魔導士か?」
「正解だぜ、タプソス。彼女は、ヤホーネスを支える5大元帥の1人にして大魔導士でもある、リュオーネ・スー・ギルだ」
「人の肩書を、大袈裟にひけらかすんじゃないよ。むしろ肩書きなら、アンタの方が上だろうに」
褐色の肌の大魔導士は、機嫌を損ねた顔で、ふわりと砂浜へと降り立った。
「悪かったな。それより村の再建計画についてなんだが、考えはあるか?」
「そうだねェ。どうせ再建をするなら、津波に強い村にしたいところだよ」
「オレもそれは、考えていた。今回の津波は人為的なモノが原因だが、自然発生の津波もあるからな。それで、どんな計画だい」
「船着き場は、今までの場所に再建するしかないだろうがね。居住区は、あの辺りの高台に作るのがイイのかもね。鳥に探らせてみたケド、結構な高さの大地が何段かに重なっているんだ」
「魔導士サマは……」「鳥も操れるのかい?」
レプティスとタプソスが、首を傾げる。
「まあ鳥と言っても、機械の鳥だがね」
リュオーネが手を挙げると、その指先に銀色の鳥が停まった。
「この鳥が、お前らの漁船を発見して下さったんだぜ」
「ホ、ホントかよ、ティンギス!」
「礼が遅くなってしまい、申しワケない」
2人の大柄な漁師は、鳥と魔導士に向って頭を下げる。
「礼だなんて、止してくれよ。それよりバルガ王。ここと同じもう1つの村も、津波に呑まれたのだろう。そちらは、大丈夫なのかい?」
「ああ。その村は、マー・メイディアの住む村なんだ。ココよりは、被害は少ないだろう」
「なるホド、そう言うコトかい。それじゃまずは、この村の再建計画を完成させるとするかね」
大魔導士は浮かび上がると、高台の上へと飛んで行った。
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