山間の村
「ホントだ、山のふもとに小さな村があるぜ」
「驚いたな。どうして解ったのですか、リュオーネさま?」
バルガ王の2人の側近が、褐色の肌の大魔導士に尋ねる。
「この辺りはね。過去に何度も、津波に襲われているのさ。だから高台に、避難場所を用意していると思ってね。だけど村の規模からすると、漁師たちと取引のある木こりたちの村のようだねェ」
「そう言えば昔、兄貴が言っていたぜ。この辺りは津波がデカくなりやすい地形だから、漁師たちはなにかあったら、山に逃げ込むんだとか」
ベリュトスが、亡き兄から聞いた話しをした。
「本当か。だったら、村にはかなりの漁村の人々が、逃げ込んでいるんじゃ……」
「楽観はしない方が身のためだよ、お嬢ちゃん。今回の津波は、海底都市の浮上っていう突発的な出来事が原因なんだ。どれだけの人間が、無事に逃げ込めたコトか」
キティオンに諭すように話す、リュオーネ・スー・ギル。
村へと近づく一行に、門番らしき2人の兵士が近づいて来る。
「どこの者だ、止まれ」
「そっちの3人は、逃げ延びた海の民か?」
それぞれの手にした槍をクロスさせ、行く手を遮る番兵。
「オレたちは、海底都市カル・タギアの者だ。オレの名は、ベリュトス。津波に呑まれた村の漁師たちとも、一緒に仕事をさせて貰っていたんだ」
ベリュトスの話を聞くと、番兵たちは槍を降ろす。
「海の民の仕事仲間が、慰問と言ったところか?」
「できれば、生存者に会いたかったんだが……そんなに酷いのか?」
「朗報は期待しない方がいい。付いて来い」
門番の1人が、丸太で組まれた門の中へ進むと、4人の一行は後に従った。
山の斜面に通った曲がりくねった道沿いに、簡素な木組みの家が十数件建っている。
頂上は砦が築かれており、中央には大きな屋敷があった。
「ここは、村の長老サマのお屋敷だ。しばらく、待っておれ」
ぶっきら棒な門番が、自らの持ち場へ帰って行くと、小女が1人茶を持って現れる。
「質素な村ゆえ、手厚いもてなしはできませんが……」
山間の民族衣装を着た少女は、盆に乗せた4つの湯呑みを、4人の客人の元へと置いた。
「……どことなく、子供の頃のティルスに似てるな」
「え?」
バルガ王の呟きを聞いた少女は、ハッと顔を上げる。
「ウム。確かに幼き日の、姉上に似ている気が……って、オイ!」
キティオンの肘(ひじ)が、バルガ王の横腹に突き刺さった。
「イ、イヤ、すまねえ。忘れてくれ」
「は、はあ……」
怪訝(けげん)そうな顔をした少女は、空の盆を持って部屋を出て行く。
「待たせたな、客人。して、この村に知り合いでも、逃げ込んでおるのか?」
真っ白な髪の老人は、腰を降ろすなり本題を切り出した。
「生きていればに、なりますがね。この村には、どれだけの海の民が逃げ込めたのです?」
ベリュトスが、応答する。
「7人じゃ。最初は、11人居たのじゃがな。助からなんだ」
「たった、それだけですか!?」
「残念な話じゃが……津波が急過ぎた」
「そ、そんな……」
長老の言葉に、落ち込むキティオン。
リュオーネの話を聞いていなかったら、さらに落胆していただろう。
「実を言うとな、長老。オレたちは、海の民の村を復興するために来たんだ」
オレンジ色の髪に、日焼けした肌と鍛えられた筋肉の男が言った。
「大きく出たモノじゃ。今の話を、聞いていったのか……バルガ王」
長老は、豊かに蓄えられた白いヒゲを撫でる。
「ご老体、知っておられたのか?」
「主(ヌシ)が王となったという噂話は、この山奥の村にも流れて来ておるでな」
「だったら、話は早い。オレは村を、津波への備えもされた港街にしてェんだ。生き残った海の民たちに、合わせてくれねェか?」
バルガ王の真剣な眼差しを、老人は見据えた。
「ワシら山の民と、海の民とは古くからの付き合いじゃ。断る理由も、無かろう」
老人は立ち上がると、そそくさと歩きだす。
王たち一行が案内されたのは、急ごしらえで造られた長屋だった。
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