アイドル炎上事件
「ロラン……つまり、キミの姉が誹謗中傷を受けたのには、なにか理由があると言うんだな?」
倉崎は、ロランの真意をそう読み解く。
「そうです。ネット上での誹謗中傷なんて、アイドルに限らずどこでも起きるのは解ってるんですがね。慎重な性格だった姉が、炎上するような書き込みをするなんて、信じられなかったんですが……」
「だが実際に、炎上は起きたんだろう。どんな書き込みが炎上に繋がったのかは、判っていないのか?」
倉崎は本当に、探偵のようになっていた。
「生前に姉が出演した、とあるテレビ番組に対するモノですね」
ロランの眉間に、シワが寄る。
「地上波のテレビ番組に、出演されていたのか?」
「……とは言っても、深夜枠で放送されていた番組ですよ。駆け出しだった姉も、所属していたアイドルグループの何人かと出てたみたいで」
「どんな内容の番組だったんだ?」
「オレも見たのは、ネットに上がっていた切り抜き程度なんスが、アイドルが変装して色んなバイトを経験する……みたいな感じでした」
「ああ、あの番組か。あった、あった」
珍しく最後部の席に座らず、ロランと倉崎の真後ろに座った紅華が、背もたれの上に顔を出して話しかけて来た。
「オレさまだって、知ってるぜ。アイドルとは知らずに雇って、けっこうこき使われた挙句、最後にアイドルだってバラすヤツだろ?」
黒浪も、紅華の隣に顔を出す。
「だけど、ヤラセ感ハンパなかったよな。名前も知られてないアイドルが正体をバラしたところで、誰だコイツってなるところをよ。雇い主が、ことごとく驚く辺りがなァ」
「え、そうなの。オレさま、けっこう普通に愉しんで見てたケド」」
「お前の頭じゃ、そうだろ」
「な、なんだとォ、ピンク頭ァ!」
倉崎とロランの頭の上で、ケンカを始めてしまう紅華と黒浪。
「止めないか、お前ら。人の話にいきなり割り込んできて、ケンカまで始めるなよ」
「ス、スミマセン、倉崎さん」
「ゴ、ゴメン……」
2人の頭が、背もたれの向こうへと消えて行った。
「スマンな、ロラン。話の腰を折ってしまって」
「いえ。紅華の言ったコトは、正しいと思いますよ。ネットを調べてみたら、ヤラセを疑う書き込みもたくさんありましたし」
「もし本当だとすれば、それが原因で炎上したのか?」
「そこまでハデに、燃えてない感じでしたね。深夜枠のバラエティ番組ですから、多少の仕込みはあるモノだと解って、見てる視聴者も多かったんじゃないでしょうか」
「だとすると、キミのお姉さんを誹謗中傷した書き込みは、番組のなにに炎上したモノなんだ?」
倉崎は、隣に座る一馬ソックリの男の顔を、覗き込む。
「人間関係ですよ。姉の言葉が、同じ番組に出演していた他のアイドルをけなしているって見られて、それでハデに燃え上がった感じなんです」
「ずいぶんと、あやふやな言い回しをするんだな」
「オレがその情報を知ったのも、姉が死んでからなんです。自分で独自に調査して、事後に知ったコトですから」
「なるホド……炎上していた当時の、殴り合いは見てないってコトか」
「はい。ですが姉と同じ番組に出ていた、4人のアイドルの名前は調べてあります」
「そのウチの誰かが、キミの姉さんと揉めたんだな」
「いいえ、全員なんです。姉は、4人のファンたちから、バッシングを受けていました」
「一方的にか?」
「それならまだ、良かったのかもです」
「どう言うコトだ?」
「まだ売れていないとは言え、姉も4人も、それぞれ推しのファンが付いたアイドルです。ファン同士が、互いに誹謗中傷を繰り返して、エスカレートして大炎上に繋がった……タブン、そんなところです」
「そうか……」
倉崎は、口には出さなかったが、ロランの話には憶測が多分に含まれているコトが気になっていた。
「証拠と言うか、スレットの書き込みはまだ残っているのか?」
「残念ながら、かなり消されてしまって……事件に不信感を抱いた有志のファンが、過去ログをあさって、独自調査として上げてるモノしか見つけられませんでした」
「それが、正しい情報かも解らないんだな」
「はい。ですが、その有志のファンの見解が、見過ごせないモノだったんです」
「どんな見解だったんだ?」
倉崎は最も重要な情報を、ロランの口から聞き出そうとする。
「炎上は、最初から計画されていた。それを指示したのは、シャイ・ニー事務所だった……と」
ロランの顔に、怒りが満ちていた。
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