ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第07章・53話

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混沌(カオス)の世界

「兵隊なんざ、敵を殺すのが仕事だ。殺した数が多いホド、英雄として崇められるのが戦争だぜ」
 ゲームの世界ならともかく、現実世界で人を殺したと豪語するプリズナー。

「ひ、酷いです。人を死なせてまで、偉くなりたいんですか!」
 珍しく怒りを顕わにする、セノン。

「アレキサンダー、始皇帝、チンギス・ハーン、ナポレオン……人類の歴史に登場する数多の英雄は、覇道の過程で大勢の人間を死なせてきた。敵も味方も、含めてね」
 ボクは、優しい少女の怒りの言葉を、そう返した。

「一将功成りて、万骨枯れる……古代の中国の、ことわざらしいがな。兵隊の身としちゃあ、お偉いさんの理想や野望ほど厄介なモンは無いぜ」

「それでプリズナー。少年兵のキミは、どんな思想や主義の勢力に属していたんだ?」

「なんだ、そりゃ。そんなモンは、知らないまま戦っていたぜ。オレの所属していた勢力は戦いに負けて、別の勢力に吸収された。その勢力も、また別の勢力に壊滅させられてな……」
 プリズナーの口からは、当時の混乱した情勢を物語る言葉しか出てこない。

「荒れ果てた、凄まじい時代だったんだな」
「まさに混沌(カオス)……」
「平和な時代に生まれて、良かったよ。今は、そこまで平和でも無いケド」

 真央、ヴァルナ、ハウメアの、3人の少女が言った。
1000年前の日本の同世代の少女たちと、大して変わらない見解だろう。

「おじいちゃんの時代は、どうだったんですか?」
 つぶらな瞳が、ボクを見つめていた。

「ボクの時代は、平和だったよ。少なくとも、ボクが住んでいた日本はね。2度の世界大戦で破滅を経験した人類は、国際法を作って凄惨な戦争を回避していたんだ」

「だが人間ってのは、時おりそれを忘れちまうのさ。オレが銃をぶっ放してた頃は、法律だの人権だのは、意味を失っていた。欲しいモノがありゃあ、人を殺したって奪う時代だからよ」

「考えて見ればボクの時代だって、100年も遡(さかのぼ)らない過去には大戦をしていたんだ。大勢の人が互いに殺し合い、日本でも民間人の上に人を焼く焼夷弾や核爆弾が投下された」

 プリズナーが言った、いびつなモザイクのように戦争と平和を繰り返す、人類の歴史。
当時の平和も、危ういバランスの上に成り立っていたのだと、気付かされる。

「常識なんてモンは、住む場所とか時代によって違うのかもな」
「少なくとも、平治と乱世では違う……」
「法が機能してない時代ってのも、わたし達には想像も付かないよ」

「わたしには、解りません。もっと平和な解決方法だって、あったかもです!」
 普段と違い、真央たちの意見に同調しないセノン。

「確かに、あったのかもな。だが、そんなモンは信じられなかった」
「どうして、信じられなかったんですか……」

「互いに、互いの仲間を殺し合っているんだ。相手を恨んでブッ殺してェとは思っていたが、信じるなんてこれっぽっちも考えなかったぜ」
 2人の主張は、まったく交わらない。

「そのウチ、戦場で部隊や仲間を護れるなんて、幻想だと気付いたオレは、用兵みたいなノリで各地の戦場を転戦した。ヤバいと思えば、味方を捨てて逃げたりもしたぜ」

「よく、生き残れたな……」
「悪運だけは、昔から強かったのさ。もっとも、死んじまった方が幸せって意見もあるがな」
 セノンの怒り顔を眺めながら、嘯(うそぶ)くプリズナー。

「やがて人類全体が、戦争って遊びに飽きて平和を模索していた頃、オレの所属する少隊は敵の大勢力に包囲されていた」
「大勢力……切り抜けられたのか?」

「イイヤ、ある建物に籠ってた部隊は全滅。オレはなんとか建物の内部へと逃げ込んだが、流石に死んだと思ったぜ」
「でも今キミは、ここの居る……」

「悪運がまた、悪さしやがったのさ」
 アッシュブロンドの男は、ニヤリと笑った。

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