島国
地下鉄の中吊り広告に掲載された、カトルとルクスの写真。
軽快に走る車内で、ユラユラと揺れている。
「どうやらボクたち、アイツらにまんまと乗せられたみたいでさ」
「ライブに出て以来、ボクたちがアイドルを続けるモンだって思ってる人が、増えちゃったんだ」
一卵性双生児の双子姉妹は、ボクの左右に腰を降ろした。
2人とも、コケティッシュな印象の大きなメガネが掛けていて、髪も淡い茶色に変化させている。
「お前たち、こんな朝早くからかけていたのか?」
「まあね。これも人間社会に興味深々の、2人のお陰だよ」
「こっちの都合なんてお構いなしに、街中連れまわされるんからね」
2人はボクではなく、正面を見上げていた。
ボクも振り向くと、いつの間にかロリポップな衣装を着た2人の少女が立っている。
「ま、まさかお前たち……!?」
少女たちは、軽くカールした金髪のツインテールを肩の辺りまで垂らし、薄いバイオレットの瞳でボクを見てた。
「どうかしら、先生。いつもとは、イメージを変えてみたのよ」
レアラが、双子に挟まれて座っているボクに、話し掛けて来る。
片方の少女は、上半身が丈の短いパステルピンク色のジャケットで、その下にスカート一体型のライム色のワンピースを着ていた。
スカートは短く、ライム色のスニーカーに、ピンクと白のストライプのハイソックスを履いている。
「少しばかり注目されている気もするケド、気のせいかしら?」
ピオラが、疑問を顔に出した。
彼女は、黄緑色のシャツに白のミニスカート、マゼンタ色のジャンパーを羽織っている。
黄緑色のハイソックスの上に、紫色のレッグウォーマーを付けていた。
首には、紫色の大きなヘッドフォンが巻かれている。
「気のせいでは、無いと思うぞ。それにしても、まるで別人だな」
ハデではあっても、2人をサラマン・ドールのレアラとピオラだと認識できないホドに、変装の完成度は高かった。
「普通は変装って、地味にするモノでしょ」
「2人ったら、まるでボクたちの言うコトを聞かないんだから!」
不満をボクにぶつける、カトルとルクス。
少なくとも、お前たちの変装よりは完成度が高いと言ったら、怒るだろうか?
「それでお前たち。人間観察の成果はあったのか?」
「ええ、モチロンよ。人間という生物の思考は、時に合理的であり、時に非効率的だわ。どうして同じ時間に、同じ交通手段に集中するのかしら。もっとシステムを切り詰めれば、ラッシュや渋滞なんて発生しないと思うのだけれど」
「でも、モーニングサービスというモノには、興味を惹かれるのよ。現在の身体は食事を必要としないけれど、いずれは食事をしてみたいモノだわ。でも、モーニングと銘打っておきながら、イブニングまでサービスを提供するのは、理解できない。お子様ランチが、終日提供なのも疑問ね」
「日本の場合、島国だと言うのもあって、英語に触れる機会が少なかったからな」
「それはそうだケド……」
「なんだか、バカにされてる気分だよ」
「島国なのは、事実でしょう」
「『海外』なんて言葉も、周りが全て海に囲まれているから成立する言葉だわ」
「うう~!」
「なんだか、悔しいィ~!」
地団駄を踏む、双子姉妹。
「お前たちも悔しいと思うなら、もう少し英語の勉強をしないとダメだぞ。これからの時代、身に付けて置いて損は無いスキルだ」
「ウゲェ、お説教になっちゃった!」
「英語も、少しずつ頑張ってるところだよォ」
ボクから距離を置く、カトルとルクス。
「心配は、要らないわ。この2人は、わたし達の下僕(しもべ)……生徒だもの」
「カリキュラムは、すでに組んであるわ。戻ったら、 英語の勉強よ」
まるでスパルタ教師の様な台詞を吐く、レアラとピオラ。
確かに2人は昨日、カトルとルクスを自分たちの生徒だと宣言ていした。
「昨日も夜中、勉強漬けだったじゃないか!」
「もう勉強なんかしなくたって、大丈夫じゃない?」
「自覚のない、コたちね。全然大丈夫じゃないわ」
「解かってない部分をピックアップして置いたから、さっさと帰るわよ」
地下鉄は、天空教室の最寄り駅に辿り着いていた。
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