ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第07章・52話

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少年兵

「とうぜんと言えば、とうぜんだぜ」
「誰も核ミサイルが飛び交う時代で、子育てなんてしたくない……」
「だから当時の母親たちは、我が子を未来の時代に託したんだね」

 真央、ヴァルナ、ハウメアの三人の少女が言った。
遠くない未来に母親となる可能性もある彼女たちにとっても、他人事では済まない話なのだろう。

「大半の母親どもは、まだ幼い内に子供を冷凍カプセルにブチ込んだ。その方が未来で蘇生される可能性も、高いと思われていたからな」
 アッシュブロンドの男が、吐き捨てた。

「実際には、どうだったんだ?」
「そうね。プリズナーの時代の冷凍睡眠者(コールドスリーパー)の多くは、幼児か赤子の状態で長い眠りに就いた状態の人が多かったわ。蘇生率で言えば、30パーセントと言ったところかしら」

「そこまで低い確立なのか、トゥラン!?」
「技術が未熟だった時代からすれば、これでも高い確率なのよ。それ以前の21世紀からやって来た宇宙斗艦長は、凄まじく幸運だったのかもね」

 プリズナーの相棒の言葉に、改めて時澤 黒乃が天才だったコトに気付かされる。
彼女自身は未来に来れなかったが、彼女が創り上げたカプセルが、ボクをこの時代に連れてくれた。
あえて確立で述べるなら、50パーセントの蘇生率なのである

「ま、カプセルが無事だったヤツらだけでの、確立だ。核の爆撃で吹き飛ばされたり、無人兵器に破壊されたり、カプセルをスクラップと捉えたブローカーが売りさばいちまったりで、死んだヤツらも数えきれないホド居るからな……」

「たとえ第三次世界大戦を生き延びられたとしても、その後にカプセルの入っている建物が崩落したりで、未来へと辿り着けなかった子たちも、大勢居るのよ」

「そ、それじゃあホントの確立は、もっともっと低いってコトですか?」
 栗毛のクワトロテールの少女が、蒼ざめた顔で言った。

「そうだろうな。ボクだってセノンが起こしてくれなきゃ、今頃は巨大な岩に押し潰されて、フォボスの採掘プラントの底で死んでいたんだ」

「おじいちゃん……」
 不安になったのかセノンは、ボクの身体に抱き着いて来る。

「プリズナー。キミの親も、冷凍カプセルに我が子を入れて未来へと託したのか?」

「イイヤ、違うぜ。オレの両親は、オレがガキの頃に無人兵器に殺されちまってるからな」
 孤高の一匹狼のような男は、ボクの質問をあっさりと否定した。

「そん時のオレは、少年兵として戦場で戦っていた。いつからかなんて、覚えてねェ。物心ついたときから、オレの手には銃やなんらかの武器が握られていたのさ」

「武器って……そんな経験、ゲームの中でしかないよ」
「だろうな。人類の歴史や世界ってのは、平和と戦争がモザイクみてェに入り乱れている。平和な国の隣国で、戦場を駆けまわっているガキが居たって、そんなにおかしなコトじゃねェだろ?」

「正直に言えば、ボクの生まれたのは島国で、周りも平和な考えのヤツがほとんどだったケドね」

「なるホドな。オレが生まれたのは、末期のアメリカだった。中国やロシアからの核攻撃のお陰で、政府や軍の中枢は破壊されて機能しなくなり、国内で対立がはびこった」

「キミは、アメリカ人だったのか。だったら、キミの敵は中国やロシアじゃないのか?」
「敵もアメリカからの核攻撃で、似たような状態に陥(おちい)ってたのさ。どの国も、外敵よりも内部分裂が深刻化していたんだ」

「だから少年兵が、必要とされたのか」
「核や化学兵器なんて持ち出された日にゃあ、個人の戦闘力なんて蟻んコみえェなモンだからな」

「酷い時代だったんだな……」
「当時はそれが、当たり前だったぜ。時代がどうのとか、気にもしていなかったさ」
「人を殺したコトは、あるのか?」

「そりゃあ、数え切れないホドにな」
 かつての少年兵は、なんの躊躇(ためら)いもなく言った。

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