ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第07章・51話

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暗黒の世界大戦

 1000年前の21世紀からボクは、冷凍カプセルの中に引き篭って今の時代にやって来た。
果たしてプリズナーは、いつの時代からの冷凍睡眠者(コールドスリーパー)なのだろうか。

「オレの生まれたのは、西暦で言やァ2308年だ。第三次世界大戦の、真っただ中ってワケよ」
 巨大イルカ(アフォロ・ヴェーナー)の背骨部分に存在するリクライニングルームで、天井を見上げながら思い出すように話し始める、プリズナー。

「第三次世界大戦って言えば、700年くらい前の話だぜ。期間は2302年から2318年だよな」
 真央が言った。
彼女の首に巻かれている、コミュニケーションリングからの情報だろう。

「2302年から2307年が第三次世界大戦で、2309年から2318年にかけてが第四次世界大戦との説もある……」
 ヴァルナは、また別の説を唱えた。

「その節だと、最初の5年がアメリカなどの主要国家が、核を使ったコトで滅亡の道を歩み始めて、後の9年がそれまでの主要国家に変わって、企業国家が台頭して来た時代なんだよな」
 ハウメアは、ヴァルナの説を補完する。

「確か間の2年間は、ほとんど戦争が行われなかったんですよね?」
「そうだぜ、セノン。だから2つの説を唱える歴史家が……」

「……ンなモンは、どうだってイイんだよ。どれも後の歴史家が偉そうに、自分の稼ぎや名誉のためにほざく戯言だ!」
 プリズナーの怒声が、少女たちの会話をかき消した。

 後世の歴史家ってのも、歴史研究で飯を食っていかなくちゃならない。
研究費を費やした挙句、今までの説と同じでしたと言う結果ではマズいのだ。
出版社も理屈は同じで、だから歴史は怪しい新説や、でっち上げな新発見とやらが絶えない。

「とにかくキミは、第三次世界大戦の真っただ中で産声を上げたんだな」
「ま、そうだぜ。アンタよりかは、300年くらい若造だがな」
 それでも今の時代のコたちからすれば、700歳の高齢者なのだ。

「第三次世界大戦とは、人間と人間があらゆる兵器を使って戦った大戦よ。大国としての力を失ったアメリカと、内部分裂によって切り刻まれた中国、強大な指導者を失って混乱したロシア……」
 プリズナーの相棒のトゥランが、大人びた声で説明してくれる。

「核や化学兵器を互いに撃ち合い、無人兵器が人間を殺した。戦闘機のドッグファイトなんて過去の産物になっちまったし、戦車や潜水艦だってとっくに無人だ」

「ボクの時代ですら、戦闘機なんてただのミサイルキャリアーって言われてたからな」
 21世紀に置いても、戦闘機の3倍以上のスピードで飛ぶ、極音速ミサイルの登場によって、大国同士の戦闘では戦闘機の存在自体が、ほぼ無意味なモノとなっていた。

「互いに国内の問題を抱えた大国同士が、アホな国民や政治組織を納得させるために戦争を始めちまった。最初は直ぐに終わるハズだった飽和攻撃の応酬が、一気に全世界規模の大戦に拡大したのさ」

「それで地球が、こんな有り様になったのか……」
 今の地球に降り注ぐ、放射能や化学物質にまみれた黒い雨も、それが遠因になっているのだろう。

「大陸を軽く飛び越えて来る核ミサイルが、何時どこに投下されるかも解らない時代だ。人間は恐怖に怯え、正気が保てなくなって酒や麻薬に溺れる連中が、街に溢れていたぜ」

「キミは、そんな時代を生きていたのか……」

「ああ。生温い時代を生きたアンタを、羨ましいと思ってるぜ」
 プリズナーは、言った。
生温い時代にすら背を向け、逃げて来たボクに向かって……。

「酷い時代だったのは、想像に難くないわ。だからこそ、ある技術が急激な進化を遂げたのよ」
「ある技術……って、まさか?」

「そう、冷凍睡眠(コールドスリープ)技術よ」
 トゥランは、ボクの脳裏に描いた答えが正しいと告げた。

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