魔導士の元帥
5大元帥のうち、3人の元帥たちの制約を取り付けた、レーマリア女王。
「有難うございます。3元帥には引き続き、それぞれの任に当たっていただきたく思います」
「了解致しました、レーマリア女王陛下。ところで、リュオーネ・スー・ギル。貴女の研究は、進んでいるのですか?」
代表して女王の意志を受託した、ヨナ・シュロフィール・ジョが、もう1人の元帥に問いかける。
「残念ながら、大した進展はないよ、ヨナ。アタシの仕事は、今日や明日のウチに結果が出る仕事じゃないからね。ただ、気になる情報を手に入れたんだ」
ブカブカの黒いシャポーを被った小柄な女性が、やる気の無さそうな顔で答えた。
彼女は、魔導国家の代表であり、5大元帥の1人に数えられる。
オーバーサイズの黒いマントを羽織り、その下には褐色の小さな体が覗いていた。
胸と腰部分しか存在しない黒い服から覗く肌には、禍々しい文様が浮き上がっている。
「その情報とは、どんなモノなの?」
好奇心旺盛な女王が、リュオーネに問いかけた。
「バルガ王の故郷の、カル・タギアからもたらされた知らせさ」
女王を前にしても、尊大な態度を取るリュオーネ。
彼女は見た目こそ幼く見えるものの、5大元帥のうちで最も長い在位期間を誇っており、歴代の王に仕えて来た魔導士だ。
「カーデリアが伝えてくれた、情報でな。女王お気に入りの、蒼き髪の英雄が今、カル・タギアに駐留しているだろう?」
「はい。カル・タギアも今は、我が国と同様にサタナトスの襲撃を受け、大変な状況にありますから。バルガ王が、我が国に来られている間は、クーレマンスと共に残って貰っております」
褐色の肌の魔導士に対し、女王は丁寧な言葉で答える。
「あの坊やはともかく、防衛の要になり得るクーレマンスまで、駐留させるコトは無かっただろ」
「それでは、信義が通りません。我が国とカル・タギアは、これから同盟を結ぶのですよ」
ラーズモ・ソブリージオ元帥に対しては、容赦のない女王。
「わたしの研究も、この王都を防衛するためのモノなんだ。シャロリュークも倒れ、雪影も王都にはおらん。同盟を結んだところで、この国が滅びちまったら元も子も無いんだよ」
「……申しワケございません。肝に、銘じておきます」
レーマリア女王は、素直に頭を下げる。
「オイオイ、この対応の差はなんだ。まあいい、それよりリュオーネ。海底都市よりもたらされた情報とは、なんだ?」
「わたしの研究の、突破口になり得る情報でな。蒼き目の勇者の元に、天使が舞い降りたらしい」
「ハア……なに言ってんだ、お前。ボケちまったのか?」
「解からないかねえ。天空都市で、サタナトスらと蒼き勇者たちが一戦を交えたときに戦った、第3の勢力のコトだよ。自分たちの存在を、重機構天使(メタリエル)と呼んでいるらしい」
「また、ワケの解からん言葉だな。そのメタリエルってのが、蒼き坊やの元に来たってのか?」
「飛来したのは、低位の天使らしくてな。天空都市で戦った高位の天使の、従者だそうだよ」
「話は解りましたが、リュオーネ。メタリエルと貴女の研究とは、どう結びつくのでしょうか?」
今度はヨナが、魔導士の元帥に質問をする。
「それはな、ヨナ。わたしが研究を進めている魔導人形の仕組みと、話に聞くメタリエルとは構造が似ている気がするのだ」
「似てるって……お前自身が、実際に天空都市で戦ったワケじゃねェだろ。メタリエルとやらも、どんな姿カタチかすら解ってないんじゃねェか」
「ラーズモ、わたしを誰だと思っている」
リュオーネは、マントの内から取り出した水晶玉を転がした。
テーブルの中央で止まった水晶玉は、いきなり宙に舞い上がって輝き始める。
「こ、これは……」
驚く、獅子面の元帥。
水晶玉には、天空都市で戦う重機構天使(メタリエル)の姿が、映し出されていた。
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