ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第07章・50話

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詮索

 アフォロ・ヴェーナーの内部空間には、サブスタンサーが8機ほど並べられる大きな格納庫がある。
ホタテ貝(シェル)モード時のシェル部分が複数パーツに展開して、巨大イルカの胴体となって重なり、大きなスペースを創り上げているのだ。

 巨大イルカの背骨に当たる中央部分には、近代的な医療ルームやカフェテリア、リクライニングルームなどが1列に連なっていて、その周りにクルー用の小さな部屋が複数配されている。

「地球で、なにがあった。ミネルヴァが死んだなんて、ただ事じゃねェぞ」
 リクライニングルームの長ソファーに座ったボクに、プリズナーが怒鳴った。

 つい最近まで、太陽系最大の意思決定機関の代表を務めていた、ミネルヴァさん。
冷静になって考えれば、その死がもたらす影響は計り知れない。

「すまない……ボクの責任だ。ボクが、ゲーに対して反抗的な態度を取ったばかりに……」
 けれども、ミネルヴァさんの死に直面し、ボクの中に冷静な心など残ってはいなかった。

「オレが聞いてんのは、地球でなにがあったかだ。誰が謝れなんつッた!」
「プリズナー、もう少し落ち着いてからにしましょう」
「そんな悠長なコトを、言ってられるか。お前だって事態がどれだけ深刻か、解ってるだろう?」

「ええ、解っているわ。でも、艦長に聞かなくても、解っている情報はたくさんあるのよ」
 相棒のアークテクターの言葉に、冷静さを取り戻すプリズナー。

「そうだな、まずゲーとウーが暴走してやがった」
「いくら旧式とは言え、地球を統治する人工知能のゲーと、地球全体を衛星で監視するシステムのウーが、同時に暴走してしまうなんて、普通では考えられないわ」

「簡単に言えば、ゲーもウーも誰かに操られてるってコトだろ?」
「問題は、誰が操っているか……」
「わたし達は、木星のラグランジュポイントや火星で見て来たよ。そんなコトができるヤツなんて……」

 真央、ヴァルナ、ハウメアの瞳が、一斉にボクを見る。

「ああ、時の魔女だろうな……」
 答えは、それしか無かった。

「……大丈夫ですか、おじいちゃん?」
 傍らに座った少女の、大きなタレ目にボクが映っている。

「平気ってワケじゃ無いケド、落ち込んでいたらミネルヴァさんに申しワケ無いからね」
 ボクは、寄り添ってくれるセノンの小さな手に、自分の手を重ねた。

「ま、そんなところだろうな。ミネルヴァは、アイツらの暴走に巻き込まれたのか?」
 プリズナーの鋭い眼光も、ボクに向けられる。

「そ、そうだリン。ミネルヴァさまはゲーの一撃を受けて、シャラー・アダドから投げ出されたリン」
「わたし達はシートの後ろに居たから、無事だったラビ……」
 実験室から逃げ出した、2人の少女が言った。

「コイツらは、実験室の亜人種(デミ・ヒューマン)か?」
「呼び方は知らないが、そうだ」
 プリズナーの質問に、ボクは答えた。

「あの男も、まだおぞましい実験を続けてやがったのか……」
「イヤ。その男なら、宇宙に旅立ったらしい。八王子の監獄で出会った、ギムレットっていう名の人が、言っていたんだ」

「へェ、あの野郎、まだくたばって無かったのか?」
「残念だケド、ボクたちを逃がす途中で死んだよ。ゲーに、潰されて……」

「そうか……ドジ踏みやがって。ま、十分に生きたから、この世に未練もねェだろ」
 軽口を叩く、プリズナー。
けれども一瞬だけ表情が凍り付いたのを、ボクは見逃さなかった。

「プリズナー。キミも、冷凍睡眠者(コールドスリーパー)だったんだな?」

「あの野郎、余計なコトを喋りやがって」
 アッシュブロンドの髪の男は、苦虫を噛みしめる。

「少しだけ、キミの過去を聞かせてくれないか?」
「まったく、なんで野郎に過去を語らにゃならんのだ」

  ボクは何も言わず、真っすぐにプリズナーを見た。

「しゃ~ない……いいぜ」
 目の前のソファーに座った男は、ぶっきら棒に長い脚を投げ出した。

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