ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第09章・第14話

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憎悪の対象(ターゲット)

 直線的な四角形で構成された、ユークリッドの本社である超高層ビル。

 よく言えば雄大で近代的、悪く言えば威圧感があって排他的なデザインの、高層建築。
久慈樹社長は赤毛の少女を伴って、煌(きら)びやかなエレベーターのゴンドラに乗り込む。

「キミの採用試験のコトを、覚えているかな?」
「もちろんです。わたしが学校で、どんな凄惨なイジメを受けたんだとか、根掘り葉掘り聞いて来ましたよね。悪シュミ極まりない、面接でしたよ」

 社長室へと続くエレベーターは何本か存在するが、久慈樹 瑞葉が使うのは彼専用のモノだった。

「ボクも、マスコミ連中を卑下しちゃいるが、ヤツらの気持も解らなくはないんだ。人が絶対に隠したいと思っている秘密を暴くのは、至極(しごく)の快悦に他ならないからね」

「動物と違って人は、ウソを付けるのです。話したコトが全て真実とは、限りませんよ」
「人だって、動物の1種さ。そしてその殆どは、サル以下の存在だよ。人から与えられた技術やデバイスを使って、自分が優れているんだと勘違いしている痛々しいヤツらさ」

 久慈樹 瑞葉は、そんなコトなど百も承知とばかりに少女の言葉をいなす。

「そんなヤツらから金を巻き上げるのが、社長のお仕事なのでしょう?」
「そこが辛いところだよ。低能なヤツらのご機嫌取りが、もっとも効率的に金を稼げる方法だからね」

 2人が、会話による口撃の応酬をしている間に、エレベーターは最上階へと達していた。
高級木材で造られた焦げ茶色のドアを開くまでもなく、ゴンドラは直接社長室内に到着する。

「さて、まずは掛けたまえよ。コーヒーでも、煎れようじゃないか」
 久慈樹社長は、飴色のキャビネットの上に置かれた、据え置き型のコーヒーミルにコーヒー豆を入れると、手動のハンドルを回し始めた。

「ずいぶんと、原始的な方法をなさるのですね」
「便利さに囲まれると、こう言った手間のかかる作業も、愛おしく思えてくるモノなのだよ」

 砂時計のようなドリップ式コーヒーメーカーの中で、砂の代わりに黒い雫がポタリ、ポタリと落ちる。
香ばしい香りが部屋に広がるに連れ、周りの時間が遅く流れているかのような錯覚を、赤柴 紅蘭蘭(あかし くらら)は感じていた。

「さてと、ここからが本題だ」
 久慈樹社長はテーブルに、煎れたばかりのコーヒーを置く。

「手慣れたモノですね。この方法で、どれだけの女を仕留めたのですか?」
「数えられないホドだよ」
 ユークリッドの最高責任者は、無邪気に笑った。

「本題と言われても、なにが社長の本題なのか、甚(はなは)だ見当が付きませんが?」

「キミがどれだけ変化したのかを、知りたくてね」
 コーヒーカップを持った男が、少女の前に座る。

「わたしの、変化ですか……瀬堂 癒魅亜(せどう ゆみあ)のではなく?」
 クララは、訝(いぶ)しい顔を久慈樹 瑞葉に向けた。

「キミはあのとき、こう言ったね。瀬堂 癒魅亜を、心の底から憎んでいる……と」

 質問のあと、久慈樹社長はソーサーからコーヒーカップを取り、顎(あご)に湯気を当てる。
一通り香りを愉しんだあと、口元に運んで一口飲み、カップをソーサーに戻した。

「……はい。確かにわたしは、そう言いました」
「ボクも、そう聞いたよ。その言葉はウソではなく、キミの本心から出た言葉だと思っている」

 少女が答えるまで、久慈樹社長が同じ作業(ルーティン)を繰り返す。

「当時のわたしは、家族に降りかかるあらゆる災いの元凶が、瀬堂 癒魅亜だと思っていました」
「ほう……だが、キミの父親を破滅に追い込んだのは、倉崎 世叛なのだが?」

「彼は、日々のニュースで弱っていく様が報道され、ついには亡くなってしまいました。ユミアが彼の妹だと言う情報は、確信できるレベルで掴んでましたから」

「それで憎悪の対象(ターゲット)が、瀬堂 癒魅亜になった……と?」
「はい……」
 そう答えたあと、また暫(しばら)く間が空く。

「キミは今でも、瀬堂 癒魅亜を憎んでいるのかな?」
 久慈樹 瑞葉は、本題の質問をした。

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