ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第09章・第13話

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伝説の記者会見の裏

「わたしをスパイみたいに、天空教室へと送り込んでおいて、得た情報だってなにに使うでも無いですよね。一体、クライアントの目的はなんなんです?」

 赤柴 紅蘭蘭(あかし くらら)の放ったトゲのある言葉は、立ち去ろうとしたクライアントをその場に引き留める。

「キミはマスコミを志す者だろう。情報を買い上げるクライアントに目的を聞くのは、暗黙のルールに反していると思うのだが?」

「既成のルールに捕らわれない貴方が、既成のルールに従えと言うのですか?」
 クララは尚も、自分の非を認めず食い下がった。

「なるホド、キミの言い分も一理あるな。場所を変えよう、付いて来たまえ」
 久慈樹 瑞葉は店での支払いを終えると、大通りに出てタクシーを呼び止める。

「全ての女性が、貴方の命令に従うとでも思っているのですか?」
「そんなコトは、思っていないよ。タクシーに乗るかどうかは、キミ次第さ」

「女性の反応を愉しむ性格だって記事は、事実のようですね」
「そんな記事は、誰にだって書けるさ。別に隠してなど、いないからね」

 オープンカフェの前に停車したタクシーに、2人は乗り込んだ。

「お客さん、どちらま……」
「ユークリッド本社の、地下駐車場に行ってくれたまえ」
 ユークリッドの社長は、あえてサングラスを外しバックミラーを見る。

 中年で小太りな運転手は、乗り込んで来た乗客が誰なのか瞬時に理解した様子だった。
けれどもそれ以上はなにの詮索もせず、車を発車させる。
それが年々過酷さを増す業界で、細々と生き抜いていく術(すべ)だったからだ。

「それにしても、キミも大きくなったものだ。ボクやアイツをつるし上げた記事を書いたあの男の娘が、マスコミを志す生徒となってボクの前に姿を現したときは、流石に驚いたよ」

 白いシートの後部座席に並んで座る、久慈樹 瑞葉と、赤柴 紅蘭蘭(あかし くらら)。
視線の交わらない会話が、ひっそりと始まった。

「お陰で父や家族は、手痛いしっぺ返しを食らいました。アレは、貴方の指示だったのですか?」
「まさか。確かにマスコミ連中に好き勝手書かれて、腹は立てていたさ。でもアイツは、ボクの比じゃないくらいに、怒っていたよ」

「そう……ですよね。自分の病気のコトを、スッパ抜かれたんですから」
「それもあるだろう。でもアイツは、自分が不治の病に侵されたコトを、実の妹に知られるのを恐れていた。それを公表されてしまったのが、あの伝説の記者会見に繋がったんだろうね」

 後ろから聞こえて来る会話に、運転手のハンドルを持つ手が震える。
『アイツ』と言うのは、ユークリッドの創始者である倉崎 世叛であるコトは直ぐに推察できたし、伝説の記者会見の意味も解ってしまったからだ。

「生前の倉崎 世叛が行なった、伝説の記者会見。彼は集まった大勢のマスコミの前に、大量のカメラを構えて会見に臨みました。全てのカメラは、記者やカメラマンたちに向けられ……」

「そうだね、クララ。1つ1つのカメラは、動画配信者に繋がっていた。ストリーミング動画を配信する多くのチャンネルで、集まった記者やカメラマンたちの紹介が行なわれた」

「紹介ですって。あんなのは、犯罪者の吊し上げに等しいわ!」
「因果応報と、言うべきだろう。キミの父親を筆頭にマスコミ連中は、若き天才実業家が不治の病に侵された悲劇を、大々的に報道した。アイツは、それを行なったハイエナが誰かを、世に知らしめただけさ」

 中年で小太りな運転手がバックミラーをチラ見すると、赤毛の少女が顔を伏せて泣いていた。

 運転手は、伝説の記者会見の行われた当時を思い返す。
多くの動画配信者によって顔や素性をバラされてしまった、マスコミ関係者はその後、動画配信者のリスナーたちによって叩かれ続けるコトとなる。

「キミの父親も、ずいぶんと叩かれて家族は散り散りになったそうじゃないか。彼の娘も、凄惨ないじめを受けたと週刊誌の記事にあったな?」
 天使のような、無邪気な笑みを浮かべる久慈樹 瑞葉。

 タクシーは日本を代表するIT企業の、地下駐車場へと吸い込まれて行った。

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