奇妙な会話
バニッシング・アーチャー(消える弓使い)の2つ名を持つ、カーデリア・アルメイダは、異名の通り完全に姿を消して攻撃を繰り出していた。
「ええい、忌々しい小娘が。どこから攻撃しているの!?」
癇癪(かんしゃく)を起こし、当たり構わず攻撃を仕掛けるデー・メーテル。
石化を繰り返した鍾乳石が落下し、脆(もろ)く砕け散る。
「どうやらアイツは地母神だけあって、戦闘には特化して無いみてェだな」
「そうっスね。もっと怒らせて冷静さを削ぐのも、有りかも知れません」
頭の上に降り注ぐ鍾乳石を避けながら、バルガ王は2人の側近と行動を共にしていた。
「どうだなか、ベリュトス。女を怒らせて、どうなるかは知らんぞ」
「な、なんだよ、キティ。脅かすなよ」
幼馴染みの少女のリアルな言葉に、たじろぐベリュトス。
「さて、どうすっかな。鬼が出るか蛇が出るか、試してみるしか無さそうだ」
バルガ王は、ベリュトスの意見を採用する。
「そうと決まれば、オレの投げ槍で威嚇しながら、距離を取って攻撃しましょう」
「アイツは、ドレイン攻撃を持っている。的確な戦法だな。近接戦闘への防御は、わたしの鎧と、バルガ王の黄金化でなんとかする」
「頼りになる側近で、助かる。投げ槍の当たる距離を保ちながら、アイツを怒らせるぜ」
ベリュトスとキティオンを伴った王は、一定の距離を保ちながらデー・メーテルとの戦闘を再開する。
「地上の英雄の槍よ……今こそ、真価を発揮してくれ!」
攻撃を担当するベリュトスが、大地母神(マグナ・マーテル)に向けて、オシュ・カーの遺した3本の投げ槍を放って中距離攻撃を仕掛けた。
「槍などで、このわたしにダメージが通ると思っているの?」
あえて避けずに、槍に串刺しになる選択をする大地母神。
左肩と右腿、それに翼の1枚に槍が刺さって止まった。
「さあ……貴方の槍は、石になって砕け散るのよ。鍾乳石と、同じようにね」
「ソイツは、どうかな。ベリュトスの槍には、オレの剣の黄金化を叩き込んで置いたぜ!」
刺さった3本の槍から、周囲に黄金化が広がって行く。
「バ、バカな。わたしの剣の石化能力を、上回っているだなんて……」
それは、邪眼剣エレウシス・ゴルゴニアの石化スピードに勝っていた。
その様子は、1匹の使い魔の大きな1つ目に映る。
蝙蝠のように鍾乳洞の天井に止まった使い魔の捉えた映像は、遠く離れたある場所にある装置に、映し出されていた。
「どう言うコトだ。バルガ王の剣であるクリュ―・サオルの黄金化させるスピードが、どうして邪眼剣エレウシス・ゴルゴニアの石化スピードを上回る?」
鋭利な角を持った金属の椅子に座った、金髪の少年が椅子ごと振り返る。
「仮にもエレウシス・ゴルゴニアは、天下七剣(セブン・タスクス)の1振りに数えられる名剣なんだ。それが、素性も解らない剣の能力に、どうして負けている?」
振り返ったサタナトスのヘイゼルの瞳には、黒い長髪の男の姿が映っていた。
「それを疑問に思ったから、オレはここに戻って来た」
主であり、幼馴染みであり、親友であり、師の仇でもあるサタナトスに向かって、ケイダンは答える。
「なんだよ、言ってみろよ。お前のコトだ。もう何らかの見解は、持ってるんだろ?」
部下に向かって、気さくに語りかけるサタナトス。
2人だけが居る黒光りする床の部屋には、天井に等間隔で空いた穴からのライトと、壁にあるオブジェクトの向こうの間接照明によって、程よい明るさが確保されていた。
「無論だ、サタナトス。どうやら邪眼剣エレウシス・ゴルゴニアは、まだ完成では無いらしい」
「どう言うコトだ、ケイダン。3本の邪眼剣が集えば、完成では無いのか」
「どうやら、そうらしいな。そして鍵(キー)になるのが、ファン・二・バルガ王だ」
「海底にある国の王が、キーマンだと言うのかい?」
「そうだ。バルガ王の父親は海皇だが、母は海の女王では無いらしい」
「それは初耳だねェ。何処でその情報を、手に入れたんだい?」
「バルガ王の父親に、直接聞いたまでだ。ヤツは包み隠さずに、教えてくれた」
世界を統べようとする男と、その忠実なる部下との奇妙な会話は、暫(しばら)くの間、続けられた。
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