ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第07章・45話

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地球の女神

「ボクが……地球の代表に?」
 思わず聞き返す、ボク。

 巨神(ゼーレシオン)と1体になってしまっているので、ミネルヴァさんの表情は読み取れなかった。

「地球圏の代表は、貴女なんだ。そんな弱気になって、どうする」
 ゼーレシオンのフラガラッハが、群がる1つ目の巨人を真っ二つに両断する。
左右に崩れ落ちる、サイクロプス。

「いいえ。わたしの替わりをして欲しいワケでは、無いのです」
「どう言うコトだ。キミは、ディー・コンセンテスの、地球圏の代表だったじゃないか。マーズのクーデターで、組織が機能しなくなったとは言え、コトが収まればまた……」

「ミネルヴァとしてのわたしの役割は、地球の意志を太陽系の全体会議(ディー・コンセンテス)にて示すコト。更に解りやすく言えば、 『ゲー』の決定した事項をいかに多く推し通すかが、わたしの役割であり、存在意義でもありました。ただ、それだけです……」

「随分と自分を、卑下した言い方をするな」
「これでも、取り繕っているのですよ。わたしは、ゲーの傀儡(かいらい )に過ぎませんから」

「それじゃあ、キミの言う地球の代表ってなんだ。まさかボクに、地球の大統領にでもなれって、言うんじゃないだろうね?」
 黒い雨を巻き込んだ巨大竜巻を、ブリューナグで破砕するゼーレシオン。

「旧来の政治体制に依存した呼び名では無いでしょうが、本当の意味での『地球の代表』に就いてもらいたいのです」

 ボクの生まれた21世紀の国々か、尽(ことごと)く消え去った1000年後の世界。
民主主義も、社会主義も、共産主義も残っていないのかも知れない。

「少なくとも今の地球の代表は、この『ゲー』なんだろ?」
「はい。地球に残った老人たちは、この原始的なコンピューターに未来を委ねたのです」

 八王子のドーム都市にとぐろを巻く、巨大な蛇を模した姿で現れた、ゲー。
1つ目の付いた鎌首をドームの天井から大きくもたげ、こちらを睨んでいた。

「地球の代表を、人間に戻すってコトか。それなら、ぼくより適任者が居るだろう」

「この惑星には、全盛期の1万分の1の人口も居ません。その殆んどが、地球の未来に希望も持たず、今の地球の状況に責任を取らない老人ばかりなのです」

「老人たちの意見も、ある意味正論で理にかなっている。キミは、こんな状況の地球さえ、変えたいと思っているのか?」

 放射能を含んだ黒い雨が、絶え間なく降り続ける地球。
宇宙から見ればまだ蒼い惑星ではあったが、黒い雲の下は完全に死の星だった。

「はい。ここは、わたしが生まれた惑星ですから」
 ゼーレシオンのコックピットの中で、200歳の人生を生きた女性がか細い声で呟く。

「人類の生まれたのも、この惑星なのです。今は、火星や月で生を授かる子も増えましたが、人類自体はこの惑星で産声を上げたのです」

 ゲーは、長い身体をうねらせて、ゼーレシオンに向って遅いかかって来た。
フラガラッハを使おうとするも、その巨体の跳ね飛ばされる。

「ボクだって、自分が生まれた惑星を見捨てたくは無いさ。でも、今の地球環境は、そんなに簡単には覆(くつがえ)らないぞ」
「解ってます。だからこそ、それを成し遂げられるリーダーが……必要とされるのです」

「キミにはボクが、英雄みたいなリーダーシップのある男に、見えるのか?」
「はい。宇宙斗艦長は……艦隊を率い多くの部下を……引き連れておられます」

「それは、成り行きでそうなっただけで……ボク自身が決めたコトなんて、殆んどないんだ」
 ドームの上に何とか着地をし、黒い空を見上げる。

「貴方の周りに……大勢が集っている。それでけで……十分なのですよ」
 ゼーレシオンの触覚が捉えるミネルヴァさんの声が、少しずつ小さくなっていた。

「大丈夫か、ミネルヴァさん」
「ミネルヴァと言う名も……本名ではありません……」

 それは、解っていた。
太陽系の全体会議(ディー・コンセンテス)の12人が名乗っていた名は、全てローマ神話の神々の名であり、それぞれの役職に合った名に過ぎなかったからだ。

「わたしは……自分の名を与えられなかった……必要なかったからです」
 八王子の監獄にある都市の、研究施設で生まれた彼女は、かすれる声で言った。

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