ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第09章・第08話

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時の波

「お前にしちゃ珍しく、やけに落ち込んでんな」
 油脂で汚れたテーブルの向こうに座った、友人が言った。

 大学時代や就職浪人時代に、頻繁に通った行きつけのラーメン屋は、夜になると顔を真っ赤に染めた客でごった返す。

「まあな。今度ばかりは、流石に落ち込むさ」
 彼らのテーブルには決まって、アメ色の瓶か、泡の浮かんだガラス製の重厚な容器が置かれており、独善的な主張を声高に叫び合っていた。

「模擬テストの結果が、思ったより酷かった。優等生のライアやメリーですら、満点にはほど遠い点数だったし、アイドルとなった生徒たちの点数ともなると、燦々(さんさん)たるモノでな」

 カウンターの向こうでは、店の親父が餃子を焼きながら、レバニラ炒めを作っている。
いや、ここのメニュー表では、ニラレバ炒めが正しい名称だったか……。

「プレジデント・カルテットまで、悪い結果だったんか。でもまあ、撮影だの曲の収録だので、ほとんど勉強してなかったんじゃ当然かもな」
 友人が、魯肉飯(ルーローハン)をかき込みながら言った。

 金が入ってない財布を持ち歩いていた時代には、絶対に頼まなかった高額メニュー。
そもそも『魯肉飯』などというシャレたメニューなど、存在すらしていなかった。

「わかり切っていたコトではあるが、それでもこの結果を目の当たりにするとな」

 そういえば、デジタル放送を無理やり出力していたアナログテレビも、雑多に物が置かれた量販店で見かける、大型の薄型テレビに置き換えられていた。
時代はボクの気付かないうちに、慌ただしく移り変わる。

「他の科目は、どうだったんよ。お前の担当は、国語と数学くらいなんだろ?」
「それぞれの科目の先生方に聞いてみたが、やはりテスト結果は似たようなモノだったそうだ」

 歴史の枝形先生や、科学の鳴丘先生、英語のマーク先生と、授業が終わったあとに地下駐車場で待ち伏せて、1通り声をかけてみた。
けれども誰もが、芳しくない表情で顔を横に振るばかりだった。

「しっかしお前との約束がありながら、生徒をアイドルに仕立てて、デビューライブまでブッ込むたァ。久慈樹社長も、とんでも無ェ妨害工作を仕掛けて来やがったな」
 友人が、黒酢のかかった八宝菜を、レンゲですくいながら言った。

「まったくだ。元々芸能界て活動していたアロアとメロエや、キアたちロックバンドが興味を持つのは予想もできたが、まさかライアやメリーまでもがアイドルになるなんて、想定外だった」

 ボクも少し、愚痴ぽくなっている。
目の前に置かれた泡の付いた容器も、空になっていた。

「すいません、生中2つ。あと、エビチリ追加で!」
 威勢良く、目の前の男が叫んだ。

「悪いんだが、あまりハデに注文しないでくれ。職を失くすかと思うと、あまり贅沢も出来ん」
「イヤ、ここはオレの奢りだ。こないだは、オレの作曲の仕事で1日付き合わせちまったからな」

「い、いいのか?」
「アレから、ゲームミュージックの制作に戻ったワケなんだが、色んな曲を短期間で仕上げたのが功を奏したのか、我ながら良き曲を仕上げられてな。臨時ボーナスを、いただいた次第よ!」

「そうか。あの経験も、ムダにはならなかったか」
「ああ。今となっては、良い修行だったと思えるぜ」
 友人は、一皮剥けた笑顔で言った。

「生中2つ、お待ちィ!」
 バイトのお姉さんが、豪快にジョッキをテーブルに置く。
泡が溢れて少し零れたが、気にも留めずそのまま他のテーブルへと流れて行った。

「世の中、時間の制約が付けば、どうにもならないコトが途端に増える……か」
 ボクは、クララの言葉を思い出しながら、ジョッキを一気に空にする。

 努力でどうにかなるコトもあれば、ならないコトもある。
その夜、終電を逃したボクを、タクシーが家まで送ってくれた。

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